べーすぼーるなっくる










「くっ…強ぇ…何だこの強さは…!?」

 ある者は己の未熟さに拳を握り項垂れ、

「経験の差でこんなにも敵わねぇもんなのか…!?有り得ねぇ…!!」

ある者は己の体を抱き、畏怖を湛えた目を向ける。
他にもこの場に人は多くあれど、皆一様に何かに打ちのめされていた。

彼らは伊達軍兵士。
普段ならば鍛え上げた軍馬を乗り回す、血気盛んな者達だ。

「ふっふっふっ…私に勝とうなんて、ざっと四百年ぐらい早いのよ」

彼らの視線を一身に受けて、高笑いを決め込むが一人、得意満面に仁王立ち。
兵士を降す機会など滅多にあるものではなく、ここぞとばかりにふんぞり返っている。

もうかかってくる者はいないの?
いないでしょうね。

ぐるりと場を見渡して、立つ者の姿がないのを確かめる。

「それじゃあ勝者はさんに決てー…」
「 Wait, まだだ」

勝利宣言を打とうとした所、待ったをかける者があった。
床に膝をついた兵達は、その声に一縷の希望を見出し目を輝かせ、片腕を突き上げかけたは緊張に顔を引き締める。

多くの視線が集まった先に、その男はいた。
壁にもたれた姿勢のまま、不敵に笑むその男。

「この俺を倒さずに勝った気でいるのか? Ha! 甘いぜ、
「筆頭ォォォッ!!」
「頼んます!俺等の仇、取って下さい…っ!!」
の嬢ちゃんをぎゃふんと言わせてやって下さいよぉっ!!」

それまで消沈していた兵達の、息を吹き返したかのような歓声の中、伊達政宗は足を進める。
身構えるに向かって悠々と歩み寄り、ある程度の距離で立ち止まる。
余裕ありげに見下ろしてくる政宗を、警戒した目で睨み上げる

勝負は既に始まっているのだ。
ここで相手に呑まれてしまえば、後の戦いもなし崩しである。
場の流れを引き寄せる術においては、政宗の方が上手。
その手管に流されないよう注意を払いつつ、は口を開いた。

「ふふふ…あんまり来て欲しくなかったんだけどな、政宗には」
「あんだけ騒いで面白そうなことやってんだ、俺が参加しなきゃ始まらねぇだろ?」
「まあ、何となく覚悟はしてたし、来ちゃったからにはしょうがない。本気で行くからね!」
「 Come on! 泣いて謝ったって知らねーぞ!!」

言葉の応酬に場が熱く盛り上がる。
声援を送ってきていた兵達も、二人が身構えると自然と口を閉じた。

息も詰まるような一瞬の後。

「せーのっ」

の掛け声と共に、一斉に場が動いた。

『やーきゅーうー すーるならー こーゆー具合にしやしゃんせっ♪』
「アウト!」

が親指を立てた拳を突き出し、

「 Safe! 」

政宗が両手を横薙ぎに薙ぐ。

「よよいの…」

合戦もかくやという鬼気迫る様相で、勝負が決するその瞬間。

「よ「そこまで!!」

すぱーんと障子を開け放つと共に轟いた待ったの声。
既に手を出しかけていたと政宗は、肩すかしにつんのめりながら、声のした方を見た。

「あ、小十郎さん」
「チッ、良い所で厄介な奴に見つかっちまった」

現れたのは、据わった目をした小十郎。
場に集まる兵達を見渡すその表情は苛立ちそのもの。

あ、これまずいやつだ。

含め誰もが危機感に固まる中で、唯一人政宗だけが、悠然と小十郎を出迎えた。

「この有様はどういう事ですかな」
が持ち込んだ game ってやつだ。褌一枚の奴らが loser …って、褌の奴ばっかりだな」

小十郎の目が流れる。

、政宗、小十郎を見守るように、座って控える兵達。
その誰もが褌、褌、褌姿。
そして彼らの着ていたであろう衣服は、の背後に山となって積まれている。

据わった目が山を捉えた時、は隙を見て逃げ出そうとしていた考えを捨てた。

「そいつぁ一体どういう遊びなんだ…説明、出来るよな?」
「はいっ!これは野球拳といいましてですねっ!」

鬼教官の詰問に必死に答える新兵よろしく、姿勢を正して説明に努める。

ルールは簡単、ジャンケンをして負けた方が、一枚一枚服を脱いでいく。
全裸は流石にアレなので、褌姿になった所で試合終了。

「って事で、ゲームに盛り上がった結果がこのザマなのでありますっ」
の嬢ちゃんジャンケン強すぎるんですよ小十郎様ぁ」
「俺等誰一人勝てなくて…不甲斐ねぇ俺等の仇を、筆頭が取ってくれようとしたんです!」

説明が終わると同時に次々と上がる声。
それらを一睨みすると、

「つまりはテメェら寄ってたかって、を脱がしにかかったって訳だな?」
「うっ…そ、それは…」

的確にウィークポイントを指摘した小十郎の言葉に、兵達各々の目が泳ぐ。
先程までの緊張感はどこへやら、バツの悪そうな緩みきった表情と雰囲気を醸した一同に、
最初の一声以来理性的に声を抑えて話していた小十郎の、声を大にした鉄槌が振り下ろされた。

「目先の欲に駆られて無様な姿晒してんじゃねぇ!!しかも全敗だ?勝負運にも見放されてんじゃねえか!!
その弛んだ性根、外走って叩き直して来い!今すぐだ!!」
「はいぃぃぃぃぃぃっ!!!」

鬼小十郎降臨。
とんでもない剣幕に圧され、褌姿の兵達は我先にと外へ飛び出していった。
ばたばたと足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなる。
静まり返った部屋に残されたのは、竜と右目と野球拳女王(暫定)。

兵達の出走を見届けると、小十郎の目がを見下ろした。
今あの剣幕を見たばかりなので、その目で見られると自然と体が強張る。
がちがちに固まった姿を小十郎はしばらく見ていたが、やがて一つ息を吐いた。

「…こういう具合に、野郎ってなぁ馬鹿ばかりだ。今度から教える遊戯は選んで、妙な誘いには乗るんじゃねぇぞ」

ぽん、と頭に置かれた手の優しさで、小十郎が心配してくれていたのだとは気付く。
見上げた先には、僅かに口元を弛めた顔。

ジャンケンに負ける気がしなかったので参戦したゲームだったが、
気苦労の絶えないこの人に心配をかけさせてしまったのは、軽率な行動だったと反省した。

ごめんなさい、もう軽々しく誘いには乗りません。
そんな意志を込めて頷きかけた時、

「それはともかく、だ。、俺との勝負がまだついてねぇぞ」
「あ」
「 Queen の座を目前にして game を下りるのか?」

小十郎の出現以来口を閉ざしていた政宗の声が、未だ決していなかった勝負の存在を思い出させた。
いきなり何を言うのかと戸惑う小十郎から、政宗へと目を移す。
挑戦的な笑みが、の視線を出迎えた。

諭されて萎んでいた闘争心が、再びめらめらと燃え始める。

「おい、…」
「止めてくれるな小十郎さん…私には逃げちゃならねぇ勝負がある」
「その意気や良し。小十郎の手前、一発勝負と行こうじゃねぇか」
「受けて立とうじゃない」
「妙な誘いに乗るなって注意したばかりだろうが!」

小十郎の声も届かず、既に二人の世界。
負けたら下着姿になるリスク、その先に待つ結果がどのようなものか、今この時ばかりは気に掛けずに。
ただ勝者という名誉を求めて、は拳を振り上げた。

『やーきゅーうー すーるならー こーゆー具合にしやしゃんせっ!』
「アウト!」
「 Safe! 」
「「よよいのよいっ!!」」










勢いだけに任せて書いた野球拳ネタ。
最後の大勝負は脱ぐ前に小十郎の手刀で沈められます。
正月早々上げたのがこんなので後悔はしてないが反省は山の如し。



2014.1.3
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