夕食後のリビング。
テレビの正面に据えられたソファに身を預け寛ぐポルナレフの背後に、は立つ。

「ん?どうした

気配を察してテレビから目を離し、振り仰ぐポルナレフには応えず、は手にしていた物を唇で食み、

「そんなトコ突っ立ってないで……、ん」

こっちに座れよ、と招き寄せるポルナレフへ向かい身を屈め、その唇へと触れた。

ふっくらとして柔らかな、温かなそれにただ重ねているだけでも十分に満たされるのだが。
はもう一歩踏み込んで、唇に食んだ物をぐいと押し付ける。

最初こそ突然のキスに驚いていたポルナレフも、すぐに慣れての頬に手を添える余裕を見せる。
迎え入れる為に唇が薄く緩んだのを見計らい、は食んだ物を舌で彼の口へと押し込んだ。

「んん……?」

口内に潜り込んできた異物にポルナレフは眉を寄せ、確かめようと離れる素振りを見せたので、逃がすまいと追いかける。

肩を掴んで引き止めて、吐き出させないように深く絡めて。
互いの熱で、含んだそれがじわじわと溶けていく。

過ぎる程の甘さが口一杯に広がる頃には、が追っていた筈の舌が、逆にの口内へと侵入を果たしていた。

息苦しさを覚えて引きかけた体を、今度はポルナレフが、先程のお返しだとでもいうように押さえ付ける。
頬に添えられていた手が後頭部へと移動し、上顎を舌先で掠めるようになぞられ。
一度舌を吸われると、脊髄を甘い痺れが駆け上っていく。

そろそろまずい、と焦燥を覚え始めた頃になってようやく、はポルナレフから解放された。

「……ショコラ?」

唇をぺろりと舐め上げて、自らに押し込まれた物の正体を探るポルナレフ。
間近から覗き込む撫子色の双眸には、が投じた火種が、小さいが確かに灯っている。

情欲の炎。

その瞳に映り込む、蕩けきった己の顔にもまた、同じものが。

「……バレンタイン」
「ん?」
「花束、くれたでしょ。バラの」

添えられた手が頬へ戻り、熱を持ったそこを親指の腹でゆっくりと撫で上げていく。
平素から体温の高いポルナレフだが、上気した頬にはむしろひやりとした涼感を与えてくる。
心地良さに浸るように目を閉じ、そっとポルナレフとの距離を詰める。
彼の肩にかけていた手をそのままするりと後ろへ流し、首筋に埋めるように顔を寄せる。

立っているのが少しだけ辛い。

「そのお返し。ホワイトデーって言うんだけどね」
「ホワイトデー……?」
「ヨーロッパと違って、日本では女の子から男の子にチョコを贈って、3月14日にそのお返しをするの。
……こっちではお返しって習慣がないから、勝手にやっちゃった」
「……」

今頃は壁にかかったカレンダーを確認しているに違いない。
首の動きでそれを知る。

「好きよ、ポルナレフ」

すり、と頬を寄せた首筋から、彼愛用のコロンが香る。
一呼吸毎に香りが鼻腔を擽り、胸の内まで彼の存在に満たされて。

これ以上傍にいると、燻り続ける炎がいずれ燃え上がり、箍を焼き切ってしまいそうだ。

「……っ、残りはキッチンのテーブルに置いてあるから。後で食べてっ……!」

未練がましく絡めた腕を、自制の心で引き剥がし。
体を起こして踵を返したの足が、ふわりと宙を掻く。

脇の下に差し込まれた手に支えられ、体がソファの背もたれを乗り越えた。
そこから滑り落ちるように、背中から座面へ転がったを迎える、

「残りのショコラで、今のはやってくんねーのか?」

口の端に抑え切れない笑みを湛えた、逆さに映るポルナレフの顔。
頭の下に敷いてしまっているのは、彼の脚だろうか。

器用に立てた銀髪の向こうに銀の騎士が消えていくのを見る。
を強引にこちら側に引き寄せたのは、彼のスタンドだったらしい。

「……あれは一粒限りのサービスとなっております」
「そりゃあ残念!」

求められた恥ずかしさについ事務的に返してしまったのを、軽く笑い飛ばされる。
けれど、笑いながらを見下ろす目に宿るのは、こちらの身動きを封じる程の色香。

ぞくりと背筋を駆け上がるもの。
灰をかぶせて鎮めていた筈の炎が、ポルナレフのそれにてられて、再び勢いを取り戻していく。

「一粒限りのサービスなら、もう少し楽しませてもらおうか」

思わず零れた吐息すらも飲み込むように、逆さのまま唇が重ねられる。
いつもと体勢が違うせいで少々苦しくもあったが、真新しい感覚はに新たな火種を投じただけに過ぎない。

忍び込んできた舌先にはチョコの甘味が仄かに残っていて、先程の行為を否応にも思い起こさせる。

「Je t'aime aussi,

息継ぎの合間、耳に吹き込まれた囁きに体が震える。
の理性の箍を外す、それが止めの一撃となり。

は抗う事を諦め、ポルナレフに身を委ねた。










バレンタイン逃したので(追うつもりもなかったけど)ホワイトデーには乗っかってみました。
いちゃいちゃきゃっきゃにゃんにゃんすれば良かろうなのだ。
にゃんにゃん(裏)は書き切れなかったので筆が乗ったらいつかまた…

仏語の正否は知りません。



2014.3.14
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