すぐそばで空気が流れる気配に、ポルナレフの意識はゆっくりと眠りの底から引き上げられる。

顔の半分まで潜り込んだ毛布。
その内側に、明け方のしんと冷えた空気が侵入する。

適温に保たれた空気が逃げていく喪失感に、反射的に体を丸めたポルナレフの頬に、ふと柔らかいものが触れた。

小さな点で触れるそれはポルナレフの顔の輪郭をなぞるように辿り、やがてもう少し面積を広げて、頬を優しく包み込む。

逃げた温度を補うような、温かく、柔らかいもの。
まどろみの中にあってそれは一層心地良い。

頭全体が、頬に触れた柔らかなものに覆われる。
軽く引き寄せられたので、抗わずなされるがまま力に従う。

とん、と額が何かにぶつかる感覚。

目を閉じたままでも、自分に触れるそれらが何であるか、ポルナレフには分かっていた。

横たわる自分の前にあるはずのものへ手を伸ばす。

探り当てたのは薄い布。
その下にある、柔らかな曲線と温もり。

腕の中にすっぽりと収まったものを抱き寄せると、

「……起こしちゃった?」

小さく身動ぎながら、静かな声が落とされた。

自分しか聞けない、起きたばかりでややハスキーな、愛しい恋人の囁き。
たった二人しかいない空間で、それでも朝の静けさを憚る、密やかなの声音。

こちらの目覚めに気付き、頭を抱いた腕を解こうとするので、

「こんな起こされ方なら悪かねえ」

はだけた夜着、その胸元へ、いやだと駄々をこねるように、額を強く押し付ける。
の腰に回した腕に力を込めると、より肌へと密着する。
寝起きの温かな彼女の体から、ほんのりと甘やかな匂いを感じた。

「くすぐったい」

肌を掠める呼吸か、髪か。
笑い含みに言う声に、ポルナレフは起きてから初めて目蓋を上げる。

視界いっぱいに広がる、薄闇に白く浮かぶ肌。
そこから頭を仰がせると、普段と違いの顔が自分よりも高い位置にある。
ポルナレフを見下ろす眼差しは、いつもより優しかった。

「もう少し寝ていたら?」

まだ朝も早いから、と細められた黒の瞳に、僅かに照れた色が浮かぶ。
の顔が近付き、視界から外れ。

額に触れる、柔らかな唇。

離れると同時に頭を抱き込まれ、キスを降らせた後のがどんな表情をしているか、確かめることは出来なかった。

「甘やかしてくれてるってのに、それを放って寝てろって?」
「だって恥ずかしいじゃない」

このまま眠って、次に起きた時には、この束の間の出来事は夢だったのだと思って欲しい。
忘れろと言外に含ませるに、小さく声を立てて笑う。

再び胸元に押し付けられた腕の中、ポルナレフは新の願いには答えず、目を閉じた。

「おれは幸せだけどな」

甘く柔らかな肌を間近に、与えられるのは軽い圧迫感と閉塞感。
寝起きの高い体温と、遠く近く聞こえる、漣のような鼓動。

少し速いリズムのそれは、平静を装うの本心を如実に物語っていた。

「Je t’aime de tout mon coeur.」

の腕の中で愛を囁く。
本来なら立場は逆であるのが望ましいのだが、時には彼女に主導権を渡すのも良いだろう。
自分達を取り巻く幸福の質に、大きな違いが出る訳ではない。

言葉だけでなく行動でも、と思い立ち、首を伸ばして目の前の胸元へ唇で触れる。
は声も上げず、僅かに体を跳ねさせるだけにとどまったが。

「Moi aussi Je t'aime.」

僅かに間を置いて、素直な気持ちを乗せた言葉が、耳に届く。

日の光もまだ弱い早い時刻。
ポルナレフは、腕の中にある幸福を強く抱き締めた。










ポル夢始めて一周年リクエスト企画立ち上げて
ありがたくも心優しい方にいただけたリクエスト一つ目。
「『心拍数#0822』のイメージでポルナレフ夢」でした。

緩やかな時の流れを一緒に過ごせる幸福を噛み締めるような曲だなと。
原作ポルナレフがあれなんで……夢主がそばにいる時ぐらいその幸せ噛み締めてて……(目頭おさえ)

リクエストありがとうございました!



2015.12.11
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