「……本当に良いのか?」
この心臓の音が聞こえてしまわないか。
そう要らぬ不安を煽られるほどの緊張と、じわじわと膨れ上がる期待の中、
組み敷いた相手の首にかかる髪を払いながら、ポルナレフは念を押すように訊ねる。
「……だって、しょうがないじゃない」
不機嫌そうな顔をして腕の下で答えるは、気恥ずかしさが先に立つのか、横を向いたまま目を合わせようとしない。
横を向くことで眼前に晒された白く滑らかな首筋。
ポルナレフはへ気取られぬよう、密やかに喉を鳴らす。
彼女は分かっているのだろうか。
どんな顔をしていたとして、どんな態度を取っていたとして、
腕の下にいる限り、本気の抵抗を見せなければ、全てがこちらの情を煽るだけだということを。
「しなきゃ、ここから出られないんだから」
ぼそりと一言付け加えたが、逸らした視線で見ているものへ、ポルナレフも目を向ける。
そこには一枚のドアがあった。
ポルナレフが今いるのは窓のない間取りの一室で、この場所においては外界とを繋ぐ唯一の出入り口。
今、そのドアは開かない。
端的に言うと、ポルナレフ達は閉じ込められてしまっている。
姿を見せない何者かによって。
ドアは押しても引いてもびくともしなかった。
ポルナレフのスタンド
開く気配のない板一枚に打てる手を打ち尽くし若干途方に暮れ始めた頃、ふとドアにある変化が起こっているのに気づいた。
初めに見た時は確かにまっさらだったドアに、突如としてある一文が浮かび上がったのだ。
それは閉じ込められた2人へ宛てた、何者かからのメッセージ。
この部屋から出る為の条件を知らせるもの。
『部屋から出るには 子作りすること』。
簡潔明瞭、単純明快。
部屋を出られるかもと一時は気分も上がった2人であったが、この一文を読んでからのテンションははっきりと明暗が分かれた。
「まあ、そりゃそうなんだけどよ」
「まったくふざけた能力だわ」
憤るように語調を荒らげる新に対し、
「おれにしてみりゃあありがたい限りではあるがな」
軽口に本音を混ぜた所、「馬鹿言わないで」と言わんばかりの眼差しで睨まれた。
ぶつけられる苛立ちを、ポルナレフは軽く肩を竦めて受け流す。
情緒不安定にもなるだろう。
八つ当たりしたくもなるだろう。
何せは意思とは関係なしに、今からポルナレフに抱かれなくてはならないのだから。
「そう怒るなって。怒ったところでここからは出られないんだ。あの条件を満たさない限りはな」
顎でドアを指し示して確認してみると、は憮然とした表情で黙り込んでしまった。
頭では分かっているのだ。
読んで、理解して、腹を決めてもいる。
ただ、他人に強制されて陥ったこの事態に納得はしていない。
そういう顔だった。
の気持ちも分からないではないが、仕掛けてきた何者かが条件を提示してきている以上、
それをクリアしなければならないのは変わらぬ事実だ。
避けられないならば、少しでもの負担が少なくてすむように。
出来得る限り心を砕くのが、男というものではないだろうか。
投げ出されていたの手をそっと掴み、口元へ寄せる。
軽く音を立てて指先へキスを落とすと、ポルナレフの下でぴくりと小さく身じろぐのを感じた。
「ベッドの上じゃあなくて悪いが、その代わりうんと優しくするぜ」
低く囁いた声に応じて絡み合う黒の瞳に、恥じらいと僅かな期待が滲む様子に、ポルナレフは小さく喉を鳴らし。
ゆっくりと顔を近づけて、薄く色づく柔らかな唇へ触れた。
「ジャンっ、やだ、くすぐったい……!」
与えられる快楽の刺激から逃れようと身を捩るの、柔らかく曲線を描く腰を左手で支え捕まえる。
「くすぐったいだけか?」
衣服を脱がされ露わとなったへその横へキスを落とし、胸の谷間を目がけ唇を滑らせる。
表面を撫でていく感覚に震える体を楽しみつつ、彼女の中へ埋め込んだ指を動かせば、途端に高い喘ぎがこぼれた。
「気持ちいい、だろ?」
くちゅりと粘り気のある水音が鳴る。
指を抜くと溢れそうな程に潤うその場所は、がきちんと快楽を拾っている証だ。
表情を窺おうにも、残念なことに顔の前で交差させた腕に隠されてしまって口元程度しか見えないのだが、
それでも噛み締めた唇と上気した頬、弾む呼吸に合わせて上下する胸が、
迫り来るものに必死に押し流されまいとする今の状態を十分に物語っている。
「」
「っ!」
わざと音を立てるようにして指を引き抜くと、それにすらひくりと反応を返すへ、外気に触れ急速に冷めていく蜜の絡んだ手を伸ばす。
恥じらい堪える顔を隠す腕を掴み、引き寄せる。
触れた肌の上で指先がぬるりと滑り、それが一体何であるか察したが羞恥の顔を覗かせた。
情欲に潤んだ目で狼狽える姿に、ポルナレフは知らず唇を濡らす。
「もう良さそうだな?」
とろりとした眼差しが向けられる。
言葉はなかったが、その表情からとうに準備は整っていると分かった。
白く細い手の甲にキスを落とし、導くのは自分の背。
力の入らない手が首へかかるのを確かめてから、の体を這い上がる。
わざと胸の頂を掠めるように動き、その刺激を拾い反射的に仰け反る喉元へ鼻先を埋める。
仄かに甘やかな彼女の匂いで胸中を満たし、ついでとばかりに白い肌を軽く吸った。
「ん、あっ……っジャン……!」
間近で吹き込まれる、鼻にかかったこれもまた甘やかな声。
熱のこもった吐息が耳を打つ度に自身もまた高ぶるのを感じる。
「……」
低く、名を呼ぶ。
首に絡められた腕の力が強くなり、互いの体がより密着した。
触れ合っている場所は熱く、その体温に促されるように、ポルナレフはの片足を抱え上げる。
開かされ、明らかとなった最奥へ、固く反り立つ自身をあてがい、
「あっ!あああ……ッ!!」
を傷つけないように、ゆっくりとその身を沈めていった。
腰に回していた腕の中、強張り、震える体を宥めつつことを運ぶ。
最初の抵抗さえ乗り越えてしまえば、の中は熱くポルナレフへ絡みつき、奥へと誘うように妖しく蠢く。
後は満ちる蜜の助けを借りながら、自身を全て収めるだけ。
「っは、ぁ……あっ……」
「……大丈夫か?ちゃんと息出来てるか」
上手く呼吸が出来ていない様子を感じ取り、首筋にうずめていた顔を上げる。
晒される白い喉元を辿り窺ったは、はくはくと口を開閉させて覚束ない呼吸を補おうとしていた。
声もなく天井を仰ぎ、深い所を暴かれる衝撃に耐え涙が輪郭を伝う。
しかし、その目はどこか陶然とした色を湛えている。
溢れる涙と相俟って、きらりと輝いて見える黒の瞳。
苦しいことは苦しいのだろうが、ただそればかりではないらしいと分かり、ひとまずポルナレフは安堵する。
「少し、動くからな。ゆっくり息を吸うんだ……」
「ふぁっ、んんっ!」
半ばまで入った自身を少しだけ引き戻すと、過剰なまでにの体が跳ねた。
『イイ所』にでも当たってしまったのだろう。
いやいやと首を振る、その動きにあわせて艶やかな黒髪がぱらぱらと乱れた音を立てる。
それとはまた別に、ざり、と擦れるような音。
行為に及ぶにあたり、この部屋にはベッドやソファといった気の利いたものはなかった。
クッションすらもなかったので、ポルナレフは仕方なく自分のトップスを下敷きとし、を床へ押し倒したのだが、
やはり薄い布一枚敷いたぐらいではベッドの代わりなど務まるものではない。
の体に挟まれ擦れる髪。
固い床面に接している新自身にも、確実に負担はかかっている。
うんと優しくすると言った手前、あまり辛い思いはさせたくなかった。
快楽だけを拾わせて、他のことなど考えられないくらいに乱れさせたい。
その為にはどうすればいいか、少し考えてポルナレフは行動に移す。
腰を支えたままだった左腕に力を込め、の体を持ち上げる。
「……?ジャ、ン……?」
我に返ったが、熱に浮かされた目に僅かな不安を浮かべて見返した。
持ち上げられて自然と反り返る体に、少しでも離れるのが嫌なのか、首に絡めた腕に力を込めて擦り寄ってくる。
甘えるような所作に、思わずこのまま抱き尽くしてしまいたい衝動に駆られるが、初心を思い出して辛うじて堪える。
の体を自分の肩口へともたれかけさせ、華奢な背中を一撫で。
それからポルナレフはそっと、を支えていた腕を緩めた。
「ひっ!?や、ああ、……ッ!」
支えを失い、ゆっくりと下がっていく体が大きく震える。
抱き上げる間も抜かずにいたポルナレフの物が、自重によってどんどんと奥へ呑み込まれていくのだ。
逃れようのない挿入。
悲鳴にも似た嬌声が至近距離で耳に吹き込まれ、開かれた脚がポルナレフの胴を強く挟み込む。
強すぎる快楽から逃れようとする、ささやかで可愛らしい抵抗だ。
その程度では逃れられるはずもない。
何よりこの自分が逃すはずもない。
ずくり、中心へ熱が集まるのを感じながら、ポルナレフは腕の中へ閉じ込めたの中へ、自身を全て呑み込ませた。
「はぁ、ぁ……ジャン……ひどい……」
優しくするって言ったじゃない。
全てを収め、断続的な刺激から一旦解放されたの口から、途切れがちに非難が飛ぶ。
「優しくしてるぜ?痛くなくて『キモチイイ』だろ」
「あっ!まだッうごいちゃダメ、ぇ……っ!」
『優しくする』と言ったことに偽りはない。
ないが、耳に吐息交じりで掠れた声を吹き込まれれば、僅かな加虐心が頭をもたげてしまうのもまた男というものではないか。
「これからもっと気持ちよくなるんだ、しっかり意識掴まえとけよ」
低く響かせた声をうっすらと色づいた耳へ吹き込むと、ポルナレフを包み込む内壁がきゅっと締まった。
いやだ駄目だと言う一方で、中はこんなにも熱く、蜜は溢れる程にポルナレフ自身を濡らしていく。
背中を支えていた手を、柔らかに丸みを帯びる尻へ伸ばし軽く撫でる。
そして逃げられないようにしっかりと捕まえて、ポルナレフはを強く突き上げた。
「ああッ!?やぁっ、ジャ、ンっ、ジャン……っ!!」
押し出された嬌声に含まれた制止の色は聞こえなかった振りをし、抽挿を始める。
の中へ突き入れる度に接合部からぐちぐちと淫らな水音が立ち、押し付けられた熱く柔らかな先端がポルナレフの胸を微妙な動きで掠める。
長く艶やかな黒髪が肌をくすぐり、少しだけ息を詰まらせた。
「あっ、あっ、ジャン、とめてっ!あかちゃん、できちゃう……!!」
押し寄せる快楽の波をやり過ごせず泣きながら舌足らずに喘ぐ。
恐らくは僅かに残った理性が今の行為の発端を覚えていた為に出たものだろう。
普段の冷静な姿からは想像もつかない稚拙な言葉に、つい突き入れたものがぐっと質量を増し、を更に喘がせることになった。
揺さぶる腰の動きは止めずに、縋り付くへ囁く。
「できても、問題ねーだろ……おれと、の、子供だ」
肩口に押し付けられた顔は、今どんな表情を浮かべているのだろうか。
見ることは叶わないが、首に縋り付く腕の力と吐息の熱さが、視覚以上にその心情を物語っていた。
「あっ、……ーーッ!」
下から突き上げられ跳ねる体がにわかに仰け反った。
びくびくと痙攣し、言葉も失い天を仰ぐが、一足先に絶頂を迎えたことを知る。
中を満たすものを引き絞るように内壁が激しく蠕動し、過ぎる程の心地良さでポルナレフを追い立ててくる。
「っ、く……!」
自分も呆気なく達してしまいそうになりながらもどうにか堪え、くたりと力の抜けたの腰を掴む。
もう少し我慢してくれと心の中で詫びながら、急激に狭くなった中への抽挿を速め、僅かに遅れて、ポルナレフもまた己の欲を解き放った。
「ナカ……あつい……」
朦朧とした口調で感じたままを呟くの、うすら赤く色づいた体を抱き締め、細い首筋に顔を埋める。
大きく息をついてから吸い込んだ鼻には、汗と甘やかな匂いが感じられた。
「気持ち良かっただろ?」
上目遣いに見上げてみると、欲の余韻が残る黒い目が動揺したように揺れる。
その様子に少し笑い、首を伸ばして鼻をすり合わせて軽く触れるだけのキスを落とす。
「これで本当におれ達の子供が出来たら、最高なんだけどな」
例えきっかけが第三者からの強制であったとしても、最中に言った通り、生まれるのは自分との子だ。
これ程幸福なことがあろうか。
はどう思っているのかと意思を問いたくて、間近でその目を覗き込む。
真っ直ぐに見返してくる眼差しがあった。
声に出しての答えこそなかったが、その反応が何よりも雄弁な答えであるとポルナレフには思えた。
ドアの鍵が開き、外に出られるようになっていると気付くまで、あと少し。
ポル夢始めて一周年記念リク2つ目、「ポルナレフとヒロインで子作りする話」でした。
大遅刻かましました!遅筆で申し訳ございません!
「子作りしましょ」という図がポルナレフでも夢主でも私には想像がつかなかったので
第三者にいっちょ噛んでもらいました。
普通に私だけで話を考えてたら思いつかないリクエストありがとうございました!
楽しかったです!
戯
2016.3.23
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