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踏青(とうせい)










「ちょっと待ってってばっ…ねぇっあぅっ!?」

 ちりとした痛みと座れる音。
不意に耳と首筋を襲ったそれに、新はびくりと身を竦ませた。

本来からこの場から脱兎の如く逃げ出したい所なのだが、現状においてはそれも不可能である。
足の間にするりと割り込んだ体。
背には木の幹があり、強く押し付けられてしまっている。
力で敵う筈もなく、完っ璧なる拘束状態。

「こっこんな所でおかしいって…!冷静になろうよ、仙蔵くん!」
「やぁねぇ、新さんってば。私の事は仙子さんとお呼びになって?」

それに、私は至って冷静よ?
耳に直接吹き込まれた声が帯びる色香に、ぞくりと背を走る何か。

無防備に耳を晒しているのが嫌で、且つやられっぱなしも嫌で。
押しのけられないのならせめて、と至近距離にある顔をきっと睨み付ける。
相手もこちらを見ていて、新の強い眼差しと視線が絡むと、嬉しげに艶やかに微笑んだ。

紅を引き弧を描く唇が扇情的な、目の覚めるようなこの美人。
立花仙蔵である。
但し仙子さんに変装中。

所作、姿、どれをとっても他人が羨む美女によって、新は体の自由を奪われていた。

「お使いの帰りじゃん…!は、やく忍術学園に戻らないと…!」
「日暮れまでに戻れば良いって、先生も仰っていたでしょう?まだ時間はあるわ」
「い、いつ人が来るか分かんないしっ!」
「何の為にこんな道を外れた所まで連れて来たと思ってるの?滅多な事じゃ人なんて来ないわ。
…そうね、新があまり大きな声を上げなければ、だけど」
「ひうっ…っ…!」

する、と袴の上から仙蔵の手が秘部を撫でる。
驚きと共にもどかしい感覚を与えられて上げかけた声は、慌てて手を口に当てて飲み込んだ。

仙蔵を伴って出かけた、学園長のお使い。
男二人よりも男女で連れ立った方が都合が良いからと、何故か仙蔵が女装をした。
男女逆転した妙な状態で、つつがなく用を済ませたその帰り。
何の因果か木陰に連れ込まれ、現在のような状況となっている。
何故こんな事をされているのか、その理由が新には分からない。

声が漏れないよう片手で口を押さえながら、もう片方の手で仙蔵の体を押す。
何とか距離を取ろうとするのだが、しかし自分程度の力ではびくともしなかったし、目で訴えてもにこにこと笑うばかり。
次第に服の上からの愛撫に、もどかしくも嫌悪とは違う感情が芽生え始めている事に気付かざるを得なくなった。

「んっ……」

押さえた手をすり抜けて吐息が漏れる。
その熱さを感じただけで身が震えた。
流され始めているのを認めたくなくて、覆った手の下で唇を噛み耐えていると、着物の袷にするりと潜り込む物。

仙蔵の手が、動きやすいように袷を少しだけ寛げ、その上で晒し布に潰された胸の突起の辺りを指の腹で探ってくる。
意志に関係なく漏れ始めた声を抑えるのに精一杯で、彼の手の蹂躙を止められない。

胸と、秘部。
双方から与えられる鈍い感覚が、抵抗する意志を徐々に蝕んでいく。

「仙蔵…くんっ…」
「私は仙子だって言ってるでしょう?…腰が揺れてきたわね、気持ち良い?」
「や、やだっ…!」

認めたくなくて、必死に首を横に振るが、体の方は誤魔化せない。
割り入った足に無意識に擦りつける感覚にも気付いていたし、仙蔵と声を押さえる為の手には力が入らず添えるだけ。
流されているのが明らかな様を見てどう思ったものか、くすりと笑う仙蔵の声が聞こえ、

「なら、もっと頑張らなくてはね?」

秘部への感覚がなくなったかと思うと、不意に腹の辺りが緩くなる。
そしてひやりとする太腿。
袴を下ろされたと気付いたのは、直後に秘部に届いた直接的な刺激に、嬌声を上げてしまってからだった。

「ふふ、やっぱり良かったのね。こんなに濡れてる」
「ふっ…あ、は…っ!」

縁をなぞるだけの仙蔵の指にぬるぬると絡み付く己から生じた物の感覚に、耐え難い羞恥に襲われる。
焦らすように浅く潜り込まされるともう駄目で、どうしたらいいか分からず両手で顔を覆うと、すぐに払い除けられた。

「駄ー目。可愛いわよ、新…もっと顔を見せて?」
「あ…」

覗き込まれ、笑みの形に細められる目。
その艶やかさに一瞬見とれている内に唇を重ねられた。
初めは触れるだけだったそれは、次第に深さを増し、息継ぎの隙を突きするりと舌が入り込んでくる。
その間も下肢に忍ばされた指の動きは続いていて、果たして耳につくこの水音はどちらから聞こえるものなのか判断が付かなくなっていた。

輪郭を失っていく思考の中で、ただ紅の苦味が舌先に残る。

「ふあ、」

不意に視界が下がり、唇が離れた。
咄嗟に踏み留まろうとした足に力が入らず、そこで初めて腰が抜けた事に気が付いた。
今は割り込んでいる仙蔵の足に支えられている状態だ。

体を起こしているのも難しく、仙蔵の着物に縋り付く。

「ねぇ…そろそろ」

いい?
密やかに、熱い吐息を耳に吹き込まれ。
その音に宿る欲の色を感じ取り、背筋が粟立つ。

最早流されまいとする意志の存在も忘れ果ててしまった。
今己の内にあるのは、存分に高められたこの熱をどうにかして欲しいという欲求と懇願。

すり、と無意識に擦り付けてしまった秘部の滑る感覚に、理性は限界を迎えた。

「ちょうだい…っ!!」

上手く言葉になっただろうか。
音に出来たかも分からない。
ただ、その時の精一杯の主張を、仙蔵の目を捉えてしてみせた。

顔を上げているのも辛くて、荒らぐ息の中仙蔵の胸元へ額を預ける。
己の内で暴れる熱を制御しきれずじっとしていると、目尻に何かが触れた。

「泣かないで…泣かせたかった訳じゃないの」

仙蔵の指だった。
目尻を離れていく指が濡れているのを見て初めて、自分が泣いている事を知った。
指から流れ落ちていくそれを見届けた所で、背に腕を回される。
同時に片足を抱え上げられ、拍子に頭が仰け反って視線が絡まった。

新…」

今ばかりは隠しきれない欲の灯。
それに誘われるように、どちらからともなく唇を重ねる内、晒された秘部に宛がわれるもの。

いつの間にか寛げていた着物から取り出された屹立が、先端を内へと埋め込んだ時。

「ああっあ!ぁんん…っ!!」

堪らず上がった嬌声は、仙蔵の唇に奪い取られた。

思うように息が出来ない苦しさと、徐々に腰を進められ下腹部を開かれる圧迫感。
それらから生じる快楽の波が、頭の中を真っ白に染めていく。

仙蔵が屹立を深く埋め込んだ頃に、ようやく口を解放された。
不足していた酸素を取り込もうと激しく喘ぐ喉を、仙蔵の唇が掠めていく。
そのくすぐったさに逃げを打つと、僅かな体位の変化で、己の中にあるものの存在を生々しく感じる。

細い悲鳴を上げてしまった。

新…苦しい?」

気遣う声と共に、汗で額に張り付いた髪を優しく払われる。
崩れた化粧、薄れた紅。
身の内で猛る熱で潤む眼差しは、ひどく扇情的で、まるで女性に抱かれている気分になってくる。

「仙子…さん…ぁ、ぅっ…!」

一瞬、苛む熱も忘れてその名を口にすると、屹立がぐんと大きさを増した。
殆ど全体重を仙蔵に預け仰け反る体。
申し訳程度に地に付けた片足ががくがくと痙攣する。
秘部から溢れた蜜がつうと太腿を伝う感触に、女物の着物を掴んだ手が震えた。

与えられる熱が強すぎて、背に縋り付きたくとも自分からは動かせない。
それを、仙蔵が着物から己の背へと誘導した。

互いの体の間から腕が失せ、生じた隙間を埋めるように、仙蔵に抱き締められ。

「もう少しだけ…我慢して頂戴ね」

欲に掠れた声を吹き込まれ、耳の後ろに唇が触れる。
それを合図として、仙蔵が腰を動かし始めた。
慣らすようにゆっくりとしたものから、次第に高みを目指し動きが早くなる。

「仙…子、さ…やっ、あっ、あ…っ!」

最奥を突かれる度甘い声が転び出る。
この時ばかりは真っ当な思考力など快楽の波に攫われ、譫言のように「仙子」の名を繰り返し呼んでいた。





「どうだった?仙子を嫁にした気分は」
「え?」

 果てを迎え、熱が引くのを待つほんの一時。
おもむろに投げかけられた問いに、新は目を丸くした。

ようやくのろのろと着物の乱れを整えだした新の前で、仙蔵は既に「仙子」の装いを解いてしまっている。
用意周到な上に支度も早い。
化粧を落とし髪を結い上げながら、仙蔵の目だけがこちらを向く。

「言っていただろう、『嫁にしたい』と」

一体何の事かと、記憶の中の該当する箇所を探しに探し。
ふと思い当たるものがあった時、新は目だけでなく口までも丸くした。

それはお使いの道すがら。
あまりに見事に化けた「仙子さん」にほとほと感心し、つい口から出た言葉。

『いやぁ、私仙子さんなら嫁にしたいなぁ』

会話の流れというものがあるではないか。
そんな言葉の綾を拾われて叶えられても、こちらとしては反応に困るばかりだ。

返す言葉もなく頭を抱えていると、不意に視界が暗くなった。

「こんなに可愛らしい夫になら、『仙子』も嫁ぎ甲斐があるというものだな」

顔を上げると、陽を遮る位置から仙蔵が覗き込んできていた。
『仙子』の面影のなくなった、その顔に浮かぶさも楽しげな笑みの小憎らしさといったらない。
批難を込めた眼差しでじとりと見つめると、一度軽く唇が重ねられた。

「…嫁のせいで腰が立たない責任は取ってくれるよね?」
「おっと、歩けないか。勿論だ」

機嫌取りの口吸いからおどけた表情を見せ、すぐに背中を向ける。
おぶっていこうというのだろう。
その背を見つめながら、少しの間思い返す。

仙子が嫁とは言いながら、当然の事だが女役は新。
うっかり嫁という単語を己に当てはめてしまって、何だか妙な気持ちになってしまう。

待機する背におぶさりながら、ほんのり熱を持った頬を仙蔵の髪にぐりぐりと押し付けた。















踏青(とうせい)=野遊び。
仙子さんがもう可愛くて可愛くて。



2014.1.22
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