笹の露・裏










「完全に酔っぱらいだね、こりゃ……ちょっと、生きてるか?」
「…佐助の防具が程良く冷たくて気持ち良い……」
「ん、生きてるなら良し。」


 を部屋まで送る為、廊下を歩いていく途中。
抱き上げられた状態で、佐助の肩の辺りに顔を押しつけたまま動かなくなったが気になって声をかけ。
問いかけにそぐわない解答が返ってきた事に、改めで酔っぱらいだという事を確認しながら、やがて目的の部屋へ到着した。


「ほら、部屋に着いたぜ。下りて布団敷いて、もう寝なさい」


支えていた背中をぽんぽん叩きながら言うが、の反応は鈍い。
佐助の首に回された双腕もろうでが緩む気配は無い。

寝てしまったのかと考えた佐助は溜息一つ零して、の部屋の障子を開けた。
人一人を抱きかかえたまま後ろ手に障子を閉め、部屋の隅にたたんで置いてあった寝具一式へと歩み寄る。

片手に、片手に布団の端を持ち、ずるずると引き摺りながらも器用に寝床を用意する。
抱いてあやしている内に寝てしまった子供の為に布団を敷く母親の感覚とはこのようなものだろうか。

いやいや俺様は真田忍隊の長であって決して母ではない。


「布団敷いてやったよ。さ、下りた下りた!」


敷き布団の傍らで跪き、改めてに就寝を促す。


「…………」
「……ー」
「…………離れたら寒くなる……」


静かな抵抗を受けた。

寒い、と主張するの、熱を帯びた吐息が首筋にかかる。

季節は雪解けから華の咲く頃へと移り変わったが、日が落ちてしまうとまだ少し肌寒い。
その肌寒い中を運ばれてきて、酔いに火照った体が冷えてしまったのだろう。
離れるのを拒んだのは、佐助の防具に移った自分の体温を惜しんだ為と思われた。

最初こそ、言う事を聞かない駄々っ子を相手にする、仕方の無さそうな色を見せていた佐助の表情が、いつしか失われている。
こうしてその体を抱き上げていてさえ湧かなかったある感情が、ささやかな抵抗を受けた時から、佐助の中に生じ始めている。

否。
実際はが酔いを見せ始めていた頃から、その感情は佐助の胸底にあった筈だ。
ただ、任もあった手前、自覚しないようにしていただけで。


「…寒いから、離れたくない?」


ささやくように問いかけると、肩の辺りで頷く気配がある。
佐助が秘めたる意思など汲み取りもせず、ただ言葉そのままに受け止めての反応であろう。

元来素直な性質の所に、酒が入って、より正直に答えるようになっている。
加えて、触れ合い方がいつもよりも大分過剰だ。

これで少しの期待も抱くなと言われたら、それは無理な話というものではないだろうか。


「じゃあ、さ……二人で暖かくなってみる?」


肩から顔を離して見上げてきたは、不思議そうな目をしていた。
酔いのせいで体温が高いからか、潤んでいる双眸。
引き寄せられるように、佐助は顔を近づけて。

返答を得るより先に、彼女の口を自分のそれで塞いだ。

触れた瞬間、佐助の首に絡められていた腕がぴくりと動いたが、それ以上抵抗する気配は見られない。

薄い皮一枚を隔てて触れているの唇が、常より熱い。

探りながら、角度を変え唇を重ねている内に、に息苦しげな素振りが見えてきた。
常よりも早く訪れた息の限界に、やはり酔いが回っているのだと感じさせられる。


「もう、駄目……?」
「…っはぁっ…!く、るしぃ……んぅっ」


少しだけ唇を離し、大きく呼吸させた所で、今度は開かれた歯列が閉じられてしまう前に舌を差し込んだ。
口中の自由を奪う。
さすがにこれには腕が解かれたが、その腕は佐助の胸元へ縋り付く。
佐助を拒んでいない為か、ただ単に酔いで力が入らなかったせいか。

いずれにせよ、この行動のせいで、それまでよりも佐助をその気、、、にさせたのは確かだった。


ここまで抱き上げたままだったの体をそっと布団へ下ろし、そこへ寝かせる。
その間も唇を解放する事無く、口中を擽るように舌を動かし、くぐもった声を引き出し続けている。

上あご、歯列の裏、或いは舌へ絡ませて吸い上げたり。
なされるがままに口内を蹂躙され翻弄されるの気が散っている内に、佐助は彼女の着物の袷へ手を滑り込ませた。

さらしの巻かれていない素の胸乳むなちが、佐助の手に触れる。

刹那、喚起されたのは、先程の小さな酒宴の席で、が取った行動だった。
脈が速くなっているのを教えようとして、信玄の手を己の胸に押し当てたものだ。
今の佐助が掌に感じているものを、あの時信玄も、服の上からではあるものの感じた事になる。

いささか、むっとした。
信玄への嫉妬に似たものと、酔ったが取った行動への不満が半々だ。


一際強く舌を吸い上げてから、唇を離す。
佐助を追うようにちろりと伸ばされたの舌との間を、透明の糸が繋いだ。


「あっ……」
「へへ…ってば、追いかけてくる程俺が恋しい?」
「んっ…そんな事、言う…な、あっ……!?」


呼吸を整える間も、佐助の言葉に顔を赤くする暇も与えず。
少し乱暴に、着物の袷を両手で割り開いた。

喋っている途中で着物を剥がされたの声が上擦る。

呼吸が苦しくて茫洋としていながらも、胸元が急に涼しくなったのは分かったらしい。
慌てて袷を掻き寄せ前を隠そうとする手を、佐助が掴み止める。

そして、片手での両手を拘束し、頭上で押さえつけた。


「う…!」
「さっきの。旦那とか…特に大将にやった事、少ーし軽率なんじゃない?」
「…急に、何の……あっ!や、だっ…っそれやるな……ぁっ!!」


の肌を隠す物がなくなり、佐助の前に晒された乳房の間から腹にかけて、空いた手の人差し指でつぅと撫でる。
肌の上を滑る指の感触に、の体が跳ね、身をよじる。

押さえつけた手の下に感じる抵抗と、佐助の下で逃げようと捩る体と。
それらを眺める醒めた表情とは裏腹に、佐助の鼓動は速くなり、気が高ぶってくるのを感じる。

だが、まだを解放する気は無かった。


「ここ、触らせるなんて、さ。酔ってたからって、俺としては見過ごせないな」
「っくぅ…んっ」


身を屈め、滑らかな曲線を描く胸の頂へ、唇を寄せる。
既に少し固くなっていたものが、舌を這わせ、吸い、唇で挟み込むなど玩んでいる内に、ぴんと張りつめるようになっていた。

堪えようとして堪えきれず、漏れ出るの声が、甘やかなものとして佐助の耳に届いてくる。
それが何とも心地よかった。


口でを苛む一方で、空いている方の手は彼女の袴の紐へとかかっていた。
佐助の動きに反応して体が揺れている中で、器用に結び目を解き、紐を緩める。
動きに合わせて袴を引き下げると、帯と腰紐も同じようにして解いて、脇へ打ち捨てた。

佐助の前に横たわったが纏っているのは、上衣と襦袢だけになった。

胸元から顔を上げ、佐助はしばしその姿を眺めた。

ほぼ裸体に近いの白い肌が、僅かな光を受けて闇の中に浮かんでいる。
視線を上げて顔を窺えば、は脇を向き、紅潮した頬をこちらに見せている。

漏れる吐息は熱を帯び、胸の頂は上を指し。
気付けば、ゆっくりとだが腰も妖しく揺れ出している。

鼓動が、一つ大きく聞こえた。

空いた手をの頬へ添え、逸らされた視線をこちらに向けさせる。
潤みきった目から一筋涙がこぼれ落ちるのを見て、そこで初めて佐助の顔に笑みが見えた。


「つらい?」
「は……ぁ、っん……っ」
「触って欲しい?」
「…ふ……っ」


囁くような問いかけ。
それに対して、小さく鈍く、それでも確かに、が頷いて見せた。

闇の中で仄白く見える肌も、酒以外の理由で淡く色づき始めているに違いない。


「素直で良い子だね、今日のは」
「んんっ……む、」


衝動に任せて、を強く抱きしめ、再び唇を吸う。
この手の事柄には慣れているし持久力もあったが、正直、耐えるのもそろそろ限界が来ていた。

同意は得た、抵抗される心配もないと判断し、佐助は戒めていたの手を解放する。
そうして自由になった手を、未だ触れていないの下肢へと伸ばす。


「ん…ま、待て…っ!」


その手を、止められた。
思わず目を丸くして、の顔をまじまじと窺ってしまう。

同意した上で、今更何を止める事があるのか。


「っ防具、が……」
「防具…?」
「固くて、嫌だ……っ」


ふい、と横を向く。
言い指されてから初めて、佐助は、自分の着衣を殆ど乱していない事に気が付いた。
眼下のは、上衣に袖を通しているだけである。

己の姿に対して、佐助があまりにきちんとした格好をしているのへ、恥ずかしさが生じたのと。
ただ正直に、固い防具を身につけられたまま触れ合うのが嫌だというのがあったのだろう。

見せた抵抗も、その主張の為だと知れたなら。

あられのない姿であっても、可愛らしく思えてしまう。
そして、より一層愛しくなるのだ。


「冷たくて気持ちよかったり、寒いから離れたくなかったり…今度は固い、か。本当に素直で……我が侭だ」


に覆い被さっていた体を起こし、上体に纏っていた物を手早く脱ぐ。
佐助が脱ぐのを待っている間の、乱れた呼吸に上下するの胸。
視界にちらちらと映り込んでくるその様が、ひどく扇情的で、佐助の気を高ぶらせる。

防具を落とし、上半身裸になる。
己の袴の紐に手を掛けながら、佐助はの顔の脇に片肘を付く。
至近距離で、覗き込む。


「こうやってに触れて良いのは、俺だけだから。…そこん所、よーく覚えといてね?」
「…さ、すけ……」


笑いかけると、潤んだ目で見つめてくるが、小さく頷いた。















 の中へ差し入れた指が蠢き、を内から翻弄する。


「は…あっ、あ…っ!ん、…やぁっ……!」


襲い来る快楽の波に流されまいと、首を左右に振り逃れようとしている。
ぱらぱらと音を立てる黒髪。
強く瞑った目から幾筋も流れ落ちる涙。
縋り付くように佐助の肩へ回された手に、時折力が込められる。

に関する事象全てに煽られつつある事を、佐助は自覚していた。

自然と荒くなった呼吸のまま、佐助が見つめる先での頬を新しく伝い落ちる涙へ、唇を寄せる。
それと同時に、の中を苛んでいた指を一度折り曲げると、一息に抜き放った。


「んんあっ……!!」
、挿れるよ…」


刺激に跳ねる体を強く抱き締める。
耳に吹き込んだ言葉にすら反応を示して、熱い吐息をこぼすが、ぎこちなくも頷く。
佐助は少し笑った。
宥めるようにの背を撫でながら、先程まで己が指を差し入れていた箇所へ、我が物を宛がう。

刹那、


「あ、ああ!っん…くぅ……っ!」


一気に、を貫いた。

嬌声を上げて仰け反ったの、白い首筋が眼前へさらされる。
我知らず、そこへ軽く噛み付いていた。


「いっ……た……ぁ」
……」


噛み付かれた痛みも別の感覚へすり替わり、掠れた声を上げるを優しく撫でる。
そしてそっと、噛んだ所へ舌を這わせ、そのまま肌を辿り上へと移動していく。

至るのは、ほんのりと色づく唇。
そこから漏れ出る声の全てを呑み込むように、深く接吻くちづけた。


「んっ…んぅ、あっ……!!」


ゆっくりと自身を引き抜き、再び中へ。
緩急を付けながらの中を攻め立て、徐々に腰の動きを速くしていく。

佐助の手はの胸を押し揉み、指先は胸の頂を転がす。
の手は佐助の肩に爪を立て、脚と結合部はそれぞれに佐助の体を締め付ける。

の呼吸が速くなってきていて、限界が近い事を知った。
絡められた腕に力が篭もり、佐助の体をより一層引き寄せてくる。

互いの胸が触れ合う感触。

佐助もまた、極みが見えて来ていた。


……!!」


名を呼び、更に激しく攻め立てる。


一際強く、腰を打ち付けた時。


「はっ……あ、あああ………っ!!」
「くっ………!!」


これまでよりも高い声が、の口から発せられて。

腕が、脚が、内部が、佐助を強く締め付け。

佐助もまた、噛み締めた歯の隙間から押し殺した声を漏らしながら、の中へ己が物を吐き出した。















 翌日。
は布団に突っ伏したまま、微動だにせずにいた。


様、お水をお持ちしましたわ。お飲み下さいませ」
「あぁ…ありがとう……」
「二日酔いだなんて……お館様方の呑む速度に合わせていたら、そうもなりますわ」


何とか頭を起こして水を受け取る姿を見て、水を持ってきた千代が呆れたような素振りを見せる。
は知らなかったが、信玄と幸村の酒豪っぷりは、どうやら有名なものらしい。


「他に具合の悪い所はございませんか?」
「………」


僅かに、水を飲む動きが止まり。
やや間を置いて、小さく頷く。
その後に嚥下した水が喉を通っていく冷たい感覚を確かめながら、は湯飲みを空にした。

飲み干した湯飲みを千代の手へ返すと、再び布団に顔を埋める。


「朝餉は用意してありますので、食べられそうでしたらいらっしゃって下さいね」


頭上から降ってくる千代の声に、軽く手を振る事で応える。
大分酒にやられているらしいその姿に、千代は仕方なさそうに笑った。

千代が立ち上がる、衣擦れの音を耳にする。
部屋を出て障子を閉める乾いた音が聞こえてきた。
本来自分が受け持っている仕事へ向かっていったのだろう。

廊下を行く足音が遠ざかり、徐々に聞こえなくなる。

その音が完全に聞こえなくなるのを見計らって、は伏せていた顔を上げる。


「……言える訳がないだろう……」


そして、盛大な溜息を吐いた。

上半身を起こそうとして走った鈍痛に、同じように布団へ倒れ込む。

痛みが走るのは、頭ではなく腰。
は二日酔いなどではない。
昨晩呑んだ酒など、一夜の内に全て抜けてしまっている。

それでなおを布団の住人にさせているのは、昨夜佐助と交わされた行為のせいだ。

酒が入っていた時の記憶はしっかりと残っている。
信玄の手を取った自分が、その手を何処へ運んだのかとか。
当時の自分の乱れ様や、佐助の問いかけに「素直に」答えた事も、全て。

うっかりその事を思い出してしまい、は一人赤面し、布団に顔を強く押しつけた。


「…もう二度と酒は飲むものか……」


いたたまれない気持ちに苛まれて、静かに決意する。
今このような状態でいるのも、元々は酒を飲んでしまったせいだ。
そのせいで、動けずにこんな思いをさせられている。

の決意は固い。

恐らく「誰か」がこの決意を聞いていたとしたら、「えーそんな勿体ない」などとのたまう所だろうが。
幸いな事に、この場には誰もいない。
誰かいたとしても、この決意を揺らがせるつもりはなかった。


鈍くも甘い痛みに眉を寄せながら、は再び、大きな溜息を吐くのだった。




















あーあ。書いちゃった。書ーいちゃったよー。
初裏でした!表現法に限界がありました!何かだらだらしてる気がします!
下書きではノリに乗ってたので書き上げは早かったですが、清書する時の一行打ち込むのが遅い事と言ったら…!!

お酒便乗犯佐助。
信玄とヒロイン(酔)の絡み(笑)見て、密かにムラムラ来てたら良いかなと。
酔っぱらったヒロインなんて珍しいので、美味しい思いしたんではないかとうわなにをするやめ

初書きで何が良いのか悪いのか分からないですが、お付き合いありがとうございました!


2008.5.6
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