「鬼ヶ島に鬼てのはこの私、だ!!」

「なっ、おま……っ人の台詞取るんじゃねぇっ!!」





波穏やかなある日の合戦。


戦闘、勃発。










   檸檬色










 合戦が終わりを迎えた後。
長宗我部軍の陣中で、今再び剣戟の音が響き渡っていた。


打ち合わされる刀と槍。
頻繁に位置を入れ替えながら、突き込み薙ぎ払い、その勢いは火花まで散らす程。


隻眼の青年と、高い位置で髪を一つにまとめた娘。


両者互いに相手を射殺すかのような鋭い眼差しで睨み合い、近付いただけで切れそうな凄まじい殺気に満ちている。


やや遠巻きに二人を取り囲む青年の部下達は、








いつもの事かといった調子でほぼ無視を決め込んでいた。










「絶っっ対、おかしいって!!チカベが名乗れて私に名乗れない道理が無いでしょ!?」

「チカベ言うな!!お前が鬼を名乗る必要はねぇんだ!!」

「はぁ!?何それ!私に鬼を名乗る資格がないっての!?」

「資格だとかそういう問題じゃねぇだろうが!!」

「じゃあ何さ、はっきり言ってみなさい!!」





部下達にとって、二人が巻き起こす、本気で相手を斬ろうとする喧嘩など日常茶飯だからだ。


どちらかの些細な言動や行動をもう片方が気に留め、しまいにはそんじょそこらの武将の対決など霞んでしまう程の猛攻に次ぐ猛攻。


これで恋仲だというのだから、世の中驚くような不思議で満ち溢れている。










ぎんっ、と一際甲高い音が鳴り響いたかと思うと、双方動きを止めた。
元親がの振り下ろした刀を槍で受け止めたのだ。


弾き飛ばそうとはせず、当然自分よりも弱いの膂力と拮抗させたまま、元親は睨み上げてくる黒の瞳を真っ向から迎え撃つ。





「言ってみなさいよ………何で私が鬼を名乗っちゃいけないのか」

「…………お前が女だからだ」





押し殺したように呟かれたその言葉に、は怒りからかっと頬を赤くした。


一歩踏み込み、更に押す力を増す。





「女だから名乗るな……?ふざけんな!!それこそそんな道理ある訳あるか!!

、落ち着け」

「女だから戦うなってのか?元親の隣で戦いたいとも思っちゃいけないのか?」

「話を聞けって!」

「お前の隣で戦う為なら鬼にだってなれるのに………なのにお前はっ!!」

「そうじゃねぇっ!………あぁくそっ!!」





幾度声をかけても聞く耳を持たないに、ついに元親が切れた。


拮抗させていた力を俄に強くして、の刀を押し返す。
崩れた均衡に一瞬は体勢を崩したが、すぐに立て直し負けじと押す。








それこそが元親の狙いだった。








押し返してくる時機を呼んで、不意に槍を引いた。


対抗するべき力を失って前のめりに体勢が崩れたを元親はその体で受け止め支える。
そしてが状況を認識してしまう前に、その唇を塞いだ。


が息を飲むのが気配で分かるも、胸に押しのけようとする手の動きを感じても、捕らえる腕を緩めずに何度も何度も口付ける。
未だ紡ごうとする怒りの言葉を全て奪い取り、腕の中で大人しくなるまで。










「……名乗る必要はねぇっつったのはな、お前がただの女だからじゃねぇ。俺の、、女だからだ」





唇を話した合間にそう囁けば、至近距離で瞠目するが目に飛び込む。


先程までとは違う意味で紅潮している頬を片手で包み込みながら、元親は続けた。





「俺の隣で戦えばそれだけでも目立つのに、鬼だと名乗れば余計目に付きやすくなる。そのせいでお前が敵に狙われるのは面白くねぇ」

「……元親…………」

「鬼ヶ島に鬼二人ってのも悪かねぇがな………わざわざ鬼にならなくても、良いだろ」





静かになったともう一度唇を重ね、解放する。
朱を散らした顔で、少し涙目になって見上げてくるに愛しさを感じた。


ここで恥じらったように小さく頷きでもすればなお想いは募るのだが。








嗚呼悲しいかな。








ぎっと涙目から睨み調子に眼差しを変え、は元親を力強く指さした。





「こんな事して上手い事言えば簡単に引き下がるなんて思ったら大間違いだからね!!」





恥じらいのはの字も見つけられない言動に、元親は溜息を吐いた。


今まで何度となく経験してきた似たような場面。


元親は「恥じらう」などとうの昔に諦めていた。


げんなり、という表現がまさに正しく使える顔で、頭を掻きつつ元親が俯く。





「……あぁ、んなこた分かってるよ……………」

「国長の地位までは無理だけど、私は元親と同じ存在として戦場に立ちたいんだ。鬼を名乗る事認めてくれるまで、諦めないからな!チカベ!!」

「チカベ言うな!!」





宣言の最後に添えられた悪口なのかそうでないのか定かでない言葉にもしっかり反論をしておく。


結局何の解決も見られず堂々巡りではないか。
内心苛立つ物は感じつつも、しかしそれは決して嫌なものではなかった。


目の前に立つ挑むような視線は相変わらずだが、それこそ彼女らしいと思える。


そしてのそんな所にこそ、自分は心惹かれたのだと思い出す。








顔ごと目を逸らしながら、元親は口元に笑みを浮かべた。





「ったく…………可愛くねぇ奴。」




















急に書きたくなった元親夢。
ほら、プレイヤーキャラ昇格おめでとう★って事で………ね!!

ひたすらぎゃーぎゃー騒ぐ夢が書きたかったんです。
満足度は半分……?



檸檬色……鮮やかな緑みの黄色。レモンには「愛嬌のない女」という意味も。







2006.3.7
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