Follow the Nightingale
は死というものを、初めて身近に感じた。
立体起動装置によって宙へ投げ出された体が、放物線を描いた先に人類の敵がいた時。
ぽっかりと大きな洞を開け、いっそ羨ましい程に整った歯列を覗かせ、笑ったように感じた時。
跳躍した先に巨人が走り込んできたのは運が悪かったとしか言いようがない。
お陰で進路変更の間もなく、奴に咀嚼される為飛び込むしかないのだから。
熱く柔らかい不快な感触の舌に体を打ち付けた直後、目の前が暗くなる。
二の腕の骨がぎりと軋み、閉じた歯列に利き腕が挟まれた事を知った。
同時に巨人の体温がの体を蝕む。
の脳は痛みを感じるよりも先に、その音と熱によって恐怖に支配され、
「ぁ…あ……嫌だ……ない……!」
自由になる残りの手足を振り回し、巨人の口内に叩きつけた。
万に一つでも、咀嚼の力を弛められれば。
「死にたくないっ!!」
腹の底から叫ぶ。
しかしの声は、厚い肉壁に吸収され外に洩れる事はなかった。
ぶつり、と皮膚の裂ける音。
腕の先が湯に浸けられたように熱く、感覚が鈍っていく。
それが痛みだと認識した時、は言葉にならない咆哮を上げ。
そして意識を失った。
多少は名の通った将の領地には、他国から送り込まれる間者の数は決して少なくない。
下男下女に成りすまし懐に入り込もうとする輩や、商人のように頻繁に出入りする者を装って内情を探ろうとする輩。
戦の世の習いのようなものだ。自国も含め何処も似たような事をやっているので、探るなとは言わない。
言わない代わりに、見つけ次第相応の手段を以てご退場願うのが、猿飛佐助率いる真田忍隊に課せられた任務の一だった。
真田の居城、上田。その敷地の一隅。
地平へ迫ろうかという上弦の月を背に、猿飛佐助は足元に落ちる影を見下ろしていた。
正確に言えば影ではなく、己の影に重なる人間を。
「俺様の網を掻い潜るとは…何者だ?」
問いかけに答える声はない。
足元の人間は俯せに倒れ、固く瞼を閉ざしている。
傍観している間身動ぎ一つしなかった為、息はあるのか、意識はあるのか判断がつかない。
佐助はその肩口を爪先で蹴り上げ、仰向けに体位を変えた。
「…ぅ」
「お、生きてる」
蹴られた衝撃で上がった小さな呻きで、生きていると確認が取れた。
多少眉はひそめたものの瞼を開く気配はなく、意識は失っているようだ。
傍にしゃがみ、明らかとなった顔と姿を観察する。
毛先の緩く波打つ肩口辺りまで伸ばされた黒髪が、乱れて白皙の面を飾っている。
ほっそりとした輪郭の女であった。
意識がない為に浅い呼吸が繰り返される度、膨らんだ胸元が上下する。
細身の袴に細身の羽織、脚絆が一体となったような沓。
袴の上からは細い帯のような物が、複雑な形状で体に巻き付けられている。
羽織は佐助の主、真田幸村の戦装束に似ていた。
側に縄のような物で体に繋がった、妙な拵えの二振りの刀が転がっていたので、これも戦装束の一種なのかも知れない。
一目で上田の民ではないと分かる出で立ちに、佐助は目を細める。
「目的は…何だろうね?」
倒れていたのが城の敷地内だった為、ただの行き倒れと捨てては置けない。
城内に入り込んでいる以上、佐助には女の素性を明らかにする責務が生じている。
真田、引いては武田に害を為す者か否か。
「んじゃま、ちゃっちゃと取り掛かりますか」
何をするにしても、このままここに寝かせてはおけない。
女を起こそうと手を伸ばし。
そして触れる前に止める。
見つめる先で、女の睫毛がふるりと震える。
「……ぅ…」
再びの小さな呻きと共に、女の目がゆっくりと開かれた。
ちょっとやりたくなってしまったので書いてみました。
BSRの世界にトリップしてきた調査兵団夢主の佐助夢です。
何処まで続くか分かりませんが、武田に置いてもらえる流れになる所までは書くつもりなので、
お時間があればお付き合いいただけると嬉しく思います。
戯
2014.8.31
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