「っん、」
絡め取られた舌を軽く吸われ、体が跳ねる。
弾みで出た声は鼻にかかり甘い音を帯びていて、流されかけていた意識がにわかに羞恥を覚え、
ポルナレフの体に添えていた手で彼の胸元を押し、離してくれと意思表示をしたが、
「!ん……ッぅん」
離れるどころかより深く唇を重ねられ、刺激に震える体を強く抱きすくめられてしまった。
上顎をくすぐる舌先。
触れられた所からじわりと痺れていくようで、押しのけるために添えた手はいつしか彼へ縋り付く。
唇を重ねたままゆっくりと押し倒される。
逃げ道を封じられた身体はポルナレフの腕に支えられ、静かにベッドへ沈んだ。
背中にスプリングの反発、前には圧し掛かるようにした彼の体。
間に挟まれた新の胸は早鐘を打つように強く鳴っている。
「ま……って……待って、くださ」
息継ぎのためか唇が離れた一瞬の隙を突き、声を上げる。
「ん……急ぎすぎたか?」
呼吸が乱れているせいで切れ切れとなってしまったものの、意図は伝わったらしい。
夜着に潜り込ませた手を止めて、ポルナレフの目が覗きこんだ。
呼気が触れる程の近さで向けられる青の瞳。
身の内に燻る熱を映し込む、欲の色の強い眼差しに怯み、思わず顔を背けてしまった。
必然的に彼の前に晒す形となった首筋へ、唇が柔らかに触れる。
肌を撫でるように滑り、くすぐったさと、それだけではない感覚をに与えてくる。
押し出されるように漏れた吐息に、ポルナレフは微か笑った。
「もう少し、ゆっくり?」
「嫌か」とは訊いてこない。
ここから先が嫌だから止めている訳ではないと、彼はとうに分かっているのだ。
止められたところで止める気もないのだろう。
圧し掛かる体は退く様子もなく、夜着の下の手が再び動き出し脇腹を掠めなぞり上げる。
組み敷いているの内側に小さな欲の火が灯っているのを知った上で確実に煽ろうとする動きだった。
はふるふると首を振る。
そろりと視線を戻すと、こちらを見るポルナレフと視線が交わる。
普段のころころと変わる表情とは打って変わって、今ばかりは匂い立つほどの色香を湛えていた。
そんな顔が向けられているだけで胸が締め付けられるように苦しくなる。
その上こちらの乱れた様子が彼の目にはっきりと見えているとあっては、恥ずかしさで心臓が破裂してしまいそうだ。
「そ、うじゃなくて……明かり……あの、……恥ずかしい、から……」
彼の手に反応する体を抑えながら、懸命に息を整え言葉を紡ぐ。
見透かされているなら形ばかりの抵抗は無意味。
ある種の諦念をもって、せめて部屋を暗くしてくれと正直に訴えた。
室内灯のスイッチはベッドから数歩の距離にある。
に言われ、ポルナレフはちらりとそちらを確認する素振りを見せたが、すぐに緩く首を振った。
「悪いな。遠すぎて、この体じゃあ消しに行けない」
軽く笑うポルナレフに、は目を丸くする。
車いすでの移動が主らしいポルナレフには、にとっては数歩の距離を行くのも幾つかの手間を要する。
そこに思い至らず、自分が感じる羞恥を和らげたいがために無理を言ってしまったのではないだろうか。
「ごめんなさい、そんなつもりじゃ」
「ああ、謝らないでくれ、おれだってそんなつもりで言ったんじゃあない」
慌てて頭を起こすと、ポルナレフの右手が唇に触れ、詫びようとする口を封じた。
そのまま優しい力でもって押され、後頭部が再びベッドへと沈む。
はポルナレフを見上げる。
受け取った通りの意味でないのなら、彼はどういうつもりでの願いを断ったのか。
唇を塞がれているので目だけで問うと、ポルナレフはまた笑って言った。
「離したくないんだ、君を。少しの間でもな」
するりと唇を撫でられる。
生身ではない右手の感触は固くひやりとしていたが、ほんの少し前まで求められ重ね合っていた唇はその刺激だけでわなないた。
左手が夜着の下を這い上がり、胸の膨らみへ辿り着く。
下着はつけていない素肌のそこを、熱のある手のひらで包み込むようにやわやわと揉まれ、咄嗟に彼の手首を掴んでいた。
不思議そうな眼差しを向けられて、は少しだけ焦る。
自分以外の体温が、緩やかながらも欲を煽るように意思を持って触れるのに驚いたのであって、彼の手を止めようとした訳ではない。
ただ、それを説明するには多少なりと「欲を煽られた」ことを言わなければならず、それが少し、恥ずかしい。
「ち、違うんです、ポルナレフさ……ん、む」
取り繕おうと開いた口に、唇を弄んでいた義手の指先がぐっと押し込まれた。
反応が遅れ、そのまま素直に指をくわえたへ、ポルナレフは甘やかに囁く。
「大丈夫だ、分かってる。気持ち良かったんだよな」
「ん、あッ!」
胸の一番敏感な部分を彼の生身の指先が掠め、不意打ちの刺激に体が大きくしなる。
反射的に手首を掴む力を強くしてしまったが、力の入りきらない抵抗などやはり無意味で。
強引に動く手が先端を押し潰すように転がし、親指と人差し指ですり合わせる。
堪らず身を捩ったの、ぷくりと主張を始めた胸の頂を夜着の上から口へ含んだ。
指とは違う温もりと湿り気、舌の蠢きと吸われる刺激。
布越しの感覚は直接指で愛撫されるよりもどかしいせいで、却って与えられる刺激を追ってしまう。
体の奥底の疼きにあえかな吐息が零れる。
堪え切れず、すり、と膝をすり合わせる。
上にいるポルナレフに気付かれないよう控えめに動いたつもりだったが、組み敷かれている以上はそれも難しく。
身動ぎにぴたりと手を止めたポルナレフがを見上げる。
「……いいか?」
密やかな声。
やや狂暴な色を宿した青の左目。
指が口から引き抜かれ、そのまま顎から首筋、鎖骨までを撫でていく動きに、は喉を鳴らす。
駄目だとは言えず、ゆっくりと頷いて答えの代わりとする。
ポルナレフは満足そうに目を細め、の胸元から伸びあがるようにして唇へ軽くキスを落とした。
ついばむようなキスの合間に胸の膨らみを包み込んでいた手が離れ、しっとりと汗ばむ谷間を滑る。
脇腹を撫で下ろした手はそのまま下肢へのび、するすると夜着ごと下着を膝まで引き下ろした。
下肢に触れる外気に息を呑み、咄嗟に体を丸めようと引き寄せかけた足は、ポルナレフの手に阻まれる。
熱く大きな手のひらがの大腿をゆっくりと撫で、体の強張りを解いていく。
ほっと息をつくの唇を軽く食んで、ポルナレフが覆いかぶさるように覗き込む。
部屋の明るさが彼の顔に影を落とす。
その中にあってなお、青の瞳は深く濃く輝いていた。
それが欲の色であることは、与えられる感覚に翻弄されぼんやりとした頭でも漠然と理解できた。
真っ直ぐに見返すへ笑いかけ、ポルナレフはおもむろに体を起こす。
器用に義肢を操り馬乗りの姿勢での体に跨ると、ある方向へ手を伸ばした。
向けられたのは頭の横、ベッド脇のテーブル。
その引き出しの取っ手を引き、手探りで何かを掴み出す。
引き抜かれた手に握られていたのは、一本のボトルと小さな包みだった。
その正体に気付いたの顔が瞬時に熱くなる。
「明日が辛いだろうから最後まではしない、が……念のために、な」
体勢を戻したポルナレフが傍らにボトルを置き、小さな包みは口に銜え、空いた左手でチャックを引き下ろす。
くつろげた前から、既に頭をもたげたポルナレフ自身が現れた。
歯と片手を使って銜えた包みの封を切り、中から取り出したものを片手で器用に装着していく。
記憶よりも細身の体が、自分の晒された下肢の上に跨る姿。
準備をするために下を向き自然と伏し目がちになる表情。
つい組み敷かれているのも忘れじっと視線を注いでしまい、
「……期待してくれてるのかい?」
おもむろに声をかけられてはっとする。
こちらを見ていないのをいいことに不躾な程に注視していたが、とっくに気付かれていたようだ。
途端に手放しかけていた理性が戻ってきて、
「……違い、ます」
「なんだ、それはそれで寂しいな」
やり場のない目を泳がせながら顔を背けると、笑い含みの声がした。
背けた視線の先で、ポルナレフが一旦横に置いたボトルを手に取る。
蓋を開ける音がして一拍ののち、ひやり、とろりとしたものが大腿へと落ちてきた。
動きを封じられた太腿の曲線を伝い内腿を濡らしたそれを塗り広げるように、ポルナレフの手が足の合わせ目へと差し入れられる。
「っ、」
柔らかい所に触れられ体が跳ねる。
内腿の間に潜り込んだ指がゆっくりと進み、やがての一番深い所へ触れた。
入り口を撫でる指がかすかに水音を立てているのはローションばかりのものではない。
自分の体から溢れ出すものが混ざり合い、ポルナレフの指に絡んでいるのが分かる。
下肢から体の芯へ這い上がる刺激と羞恥は辛うじて耐えていたが、そのままさしたる抵抗もなく指先が潜り込んで来たのには、流石に顔を覆わざるをえなかった。
「、隠さないでくれ。君の顔が見たいんだ」
ふるふると首を振る。
浅い所で蠢く指が内壁を探り、親指が陰核を柔らかく押し潰す。
ポルナレフの手が与える快感に、喉元まで上がる声を押し殺すので精いっぱい。
そんな余裕のない顔を見せたくなかった。
頑なに顔を隠していると、やがて小さな吐息が耳についた。
諦めてくれたのか。
ほっとして、そっと手の隙間からポルナレフを窺い見たのと同時。
埋められた指が折り曲げられ、中を掻くようにして引き抜かれた。
「んゃッ!」
油断した不意を突いて与えられた強い刺激。
抑える間もなく飛び出した声は鼻にかかり、甘い響きを含んでいた。
耳が捉えた自分の声に驚き狼狽え、咄嗟に手で口を塞いだので、こちらを見るポルナレフの前へ顔を晒してしまう。
高い位置から見下す顔がこちらを向いている。
『男』としての顔を見せるポルナレフに、自然と鼓動が早くなっていく。
「」
呼吸浅く押し黙るへ呼びかけ、ポルナレフが身を屈める。
その手が足の付け根を押し開いた。
足の間、僅かに出来た隙間へ、ポルナレフは自身のものを押し込む。
ローションの滑りを借りてそれはゆっくりと沈み、やがてひたりと互いの腰が密着した。
太腿で挟み込まされているだけなので当然ながら痛みはないが、否応にも意識は足の間にある熱いものへと集中してしまう。
大胆なことをしている、されている。
その自覚がをなお一層昂らせ、絡め取り。
ポルナレフを見つめたまま動けなくなってしまうのへ、目の前の彼は少し笑って、身を固くするを抱き締めた。
再び組み敷かれ、耳を掠める吐息。
ひくりと震える体へ、ポルナレフは頬を摺り寄せ、
「動くぜ」
囁きと共に腰を動かし始めた。
初めは緩やかに、段々と速く。
足の間を行き来する熱が突き込まれる度に粘り気のある水音も激しさを増していき、ポルナレフの荒い息と混ざり合ってを耳から侵していく。
「ん、んっあ、ポ、ルナレフ、さんッ……!」
揺さぶられる内に、押さえた手の隙間から漏れた声。
与えられる快楽に翻弄されつつある今、それはひどく頼りないものだった。
腰の動きは止めず、ポルナレフが顔を持ち上げこちらを見る。
「ちょいと物足りないが……他人行儀なのも、たまにはイイ……かもな」
上気し汗ばむ顔で目を細め、の手へキスを落とす。
それを二度三度と繰り返すポルナレフの意図を察し、口元を押さえていた手を外すと、待ちかねたように唇を重ねられた。
性急に求められ誘い出された舌をポルナレフのそれへ絡めながら、空いた手は彼の肩へ。
触れた途端苦しい程に強く抱き締められ、互いの体がより密着した。
「あ、や、んんッ……ッ!」
掻き回されて蕩けた場所をゴム越しの先端に突かれる度、迎え入れるようにひくひくと震える。
陰核にも触れるように動かされ、痺れにも似た快感に自然との腰も揺れた。
しかし弱い所を掠めるだけで、ポルナレフはそれ以上腰を進めようとはしない。
最後まではしないという宣言を守るつもりらしく、それが逆にを煽り苛んだ。
「ぽる、な……さん……っ」
苦しくて、どうにかして欲しくて、粒切れの息で彼を求める。
顔を上げたポルナレフは、の目じりへ唇を寄せ、知らず零れていた涙を吸った。
「」
そばで囁かれる自分の名前。
堪らない思いが胸を満たし、は衝動のままポルナレフの首に腕を絡めた。
乾き始めていた彼の唇を舌でなぞり、そのまま重ねる。
ポルナレフは驚いたのか一瞬動きを止めたが、すぐに応えるように舌を絡めてきた。
ベッドに押し付けられ、彼の熱に包まれている。
呼吸すらも奪うほどに、彼に求められている。
それがとても嬉しくて、同時に泣きそうなほどに安心する。
「ああっ、ぽるな、ふ、さんっ……ぽるなれふさんっ」
「大丈夫だ……。大丈夫だから……っ」
胸が満たされる間も与え続けられていた快感が大きな波となってに迫る。
いやいやと首を振って逃げようとするを腕の中に閉じ込めて宥めながら、ポルナレフもまた何かに駆り立てられるように腰の動きを速めていく。
激しい水音響く中、ポルナレフに何度目か突かれた時、ついにの背が大きくしなった。
「あ、ああ……ーっ!」
目蓋の裏で閃光が弾ける。
びくびくと体が震え、足の間にあるポルナレフのものを強く締め付ける。
挟まれたポルナレフは苦しげに呻いたものの動きは止めず、ややあって新の深い所に触れた先端からそれまで以上の熱を感じた。
深く息を吐きもたれかかってくるのを見て、彼も達したのだと分かった。
指先を動かすのさえ億劫な怠さを少しだけ我慢して、ポルナレフの後頭部をそっと撫でる。
柔らかな銀の髪に触れると、脱力していたポルナレフが少しだけ顔を上げる。
かちあった青の目は、既に静かな色を取り戻しつつあった。
全ての照明が落とされた部屋は、目覚めた時よりもなお暗い。
目を開けても見えるのは朧な輪郭ばかりで、向かいあう相手がいることすら曖昧になっていく。
気怠い身体を包む温もりと、かすかに伝わる鼓動。
ベッドに横たわったは、ポルナレフの腕に抱かれていた。
引き寄せる力に素直に従い、彼の胸元へ頭を預ける。
後ろ髪を梳く優しい手つきが心地良く、はそっと息をついた。
「疲れたろう。つらくはないか?」
低く掠れた、気遣いの色を滲ませた静かな声に、閉じていた目蓋を持ち上げて頭を傾ける。
相変わらず視界は暗闇に沈んでいるが、ぼんやりとした彼の輪郭がこちらを向いていることは分かった。
「眠いなら寝ろ。無理に起きてたっていいことはないぞ」
この暗さで、彼にはこちらが見えているのだろうか。
見上げている間にもとろとろと落ちてくる目蓋を見透かされたように、笑い含みに言われる。
後ろ髪を梳いていた手がの後頭部を包み、自分の胸元へと抱き込んだことで、大して役に立っていなかった視覚が完全に閉ざされた。
代わりに感じるかすかなコロンと、ポルナレフの匂い。
一呼吸ごとに安心感が満ちていき、心地の良い疲労と共にの眠気を誘う。
「これは……夢、なんですよね……」
目を閉じた顔をポルナレフの胸元へ押し付けて紡いだ言葉は力なく頼りない。
それでもきちんと聞き届けてくれたようで、ああ、と小さく答える声があった。
「このまま眠って、目が覚めたら。いつもの日常に戻っているよ」
思考が溶けていく。
指先に力が入らない。
耳に馴染む声も、の脳を留まらずに抜けていく。
「ポルナレフさんは……どうして……」
最後はほとんど吐息のように。
呟きは、どういう意図を含んだものだったか。
「その答えは、君の旅が終わったあとに」
おやすみ、。
温かく柔らかなものが額に触れた。
その感覚だけで、僅かに残った疑念さえも霧消して。
はポルナレフの腕の中、眠りへと落ちていった。
5部ナレフ×3部夢主編終了。
本番だけど本番じゃありませんでした。
出来はともかくとして書きたかった5部ナレフの素股書けたので満足です(ストレート)
続きもあります。原稿が立ちはだかってるのでちょっと待っててください。
戯
2017.8.11
前話×目録×次話