日本を発って四日が経過している。
学生が学生らしく学校へ通っているならば、ようやく迎えた週の折り返しを、日曜を心待ちにしながら授業に臨む頃。
長いように思えて、瞬きの間に過ぎていく日々を旅の空で重ね、ジョースター一行はシンガポール入りを果たしていた。
空路、海路と移動手段を乗り継ぎ移動する間、一行は幾人もの刺客の襲撃を受けている。
今も、また。
視界の端を黒い影が走る。
それが何であるかを知覚するよりも早く、彼……空条承太郎はスタンドを発現した。
紫がかった逞しい体躯からは想像もつかぬ、精密な動きを得意とするスタンド、スタープラチナ。
その指先が、凄まじいスピードで急接近してきた黒い影……銃弾を、いとも容易く掴み止めた。
「承太郎!」
「ただの銃弾だ、問題ない」
背後から聞こえた名を呼ぶ声は、祖父ジョセフ・ジョースターのもの。
死角を補い合う為に背を預け合い、様子を確かめられない祖父へ、言葉で無事を伝える。
すると右の後方で、別の声が苦笑を洩らした。
「日本ではただの銃弾が飛んで来たら大問題だろう?……『
『問題ない』とする基準のズレを冷静に指摘し、花京院典明は自らのスタンドを解き放つ。
緑に輝くスタンド、『法皇の緑』は承太郎の脇を摺り抜け、銃弾が飛んで来たと思しき方向へ真っ直ぐと向かっていく。
射程距離が長い花京院のスタンドは、索敵にも優れた力を発揮する。
今も銃を向けた相手を探す為スタンドを這わせたのだが、結果はあまり芳しくなかったようで、
「駄目だ。既に移動したのか見つからない」
「おいおい、この見通しだぜ!?誰かが動いたら分かりそうなもんだろうが!見つからないなんてそんなおかしな話があるかよ!!」
花京院の報告に真っ先に噛み付いたのは、香港で旅に加わったジャン=ピエール・ポルナレフ。
普段からのオーバーな振りで現状をアピールしているだろうと、見なくても分かる。
その姿を頭の隅に想像しつつ、承太郎は改めて周囲に目を配った。
現在、広い通りの只中で円を描くように、5人互いに背を向けて立ち尽くしていた。
時間帯のせいか、通りの広さに比べて人影はなく、それこそポルナレフの言うように、
発砲して逃げるなどという不審な動きをする者がいれば一目で分かる程度には見通しが良い。
だというのに、目に留まる動きをする者はおらず、且つ花京院の索敵にも誰も引っかからない。
これはどういう事か。
「どこかビルの上から狙撃してきてるんじゃあねえか?」
「いや……見た所こいつは普通の拳銃の弾だ。そんな遠くから狙える代物じゃあないし、飛んで来た角度から考えてもビルからは有り得ねえ」
ポルナレフが提示した一つの可能性を、スタープラチナの指先で弾丸を握り潰しながら否定する。
必ず近くにいる筈なのだ。
こちらの位置を把握しつつ、自分の居場所を隠し通す何者かが。
それがDIOの刺客か、それとも
敵意を証明する物が、何の変哲もない銃弾のみでは、判断のしようもない。
「このまま姿を晒しているのはまずい、ひとまずあの路地へ!」
モハメド・アヴドゥルがビルとビルとの間、今いる場所に比べればずっと細い道を指し示す。
一行は場所を移す目的を即座に察し、路地に向けて走り出す。
揃って一方向を向いた一行の背中へ、再び銃弾が飛来する。
「そう来るだろうと思ってたぜ!『
死角が出来ればそこを狙うだろう、という読みのもと、待ち受けていたのはポルナレフだ。
スタンド・『銀の戦車』のレイピアで、飛来した銃弾を刺し貫く。
向かう路地とは反対方向からの狙撃だった。
行く先に敵はいない、それを確認し、一行はビルの間の路地へと駆けた。