行き着いた路地の半ばまで来ると、一行は足を止め今来た道へ向き直った。
左右はビルの壁に阻まれ狙撃は不可能。
何者かが攻撃を仕掛けてくるなら路地の入口か、回り込んで背後を突くかの二通りしかない。
わざわざ見通しの悪い路地に逃げ込んだ狙いはそこにこそあった。
「少なくともこれで、相手の姿は分かる筈だ」
即時動けるよう身構えてアヴドゥルが言う。
この位置にいる限り、銃で狙って来る相手は必然的に姿を現さざるを得ない。
その瞬間を待ち構えるべく、一行は口を閉ざす。
遠くなった雑踏にさえ紛れてしまう小さな音にも聴覚を研ぎ澄まし、些細な変化も見逃さぬよう目を凝らす中で。
前触れなく、放たれた銃弾が現れた。
「何!?」
立て続けに四発。
それは注意を傾けていた最中であったにも関わらず、音もなく、誰もいない一風景の中から……先頭に立っていた承太郎を正確に狙い飛来した。
「クロスファイヤーハリケーン!」
アヴドゥルのスタンド『
鉄の棒さえ刹那の内に溶かし尽くす炎が立ちはだかってしまえば、たかが鉛の弾に越える術などなく。
承太郎の前から炎の壁が失せた時、迫り来る四つの影は跡形もなく消え去っていた。
後に見えるのはビルの壁に切り取られたシンガポールの街並みのみ。
「あれは……スタンド能力!という事は、相手はDIOの刺客か!!」
ポルナレフが叫ぶように断じると、頷いてジョースターが同意を示す。
「恐らくは姿を消す能力!発砲音もしなかったのは、きっと音も消せるのじゃろう。そりゃあ目で探そうとしても見つからんわい」
「つまり相手は、路地の前まで来ている、と?」
これは拙いな、と呟いたのはアヴドゥルだ。
姿を見せない、音も立てない何者かが、間近まで迫っている。
その存在を辛うじて察知できるのは、現時点では相手が発砲した弾が、能力の有効範囲を越えて出現してからだ。
これでは完全に後手に回ってしまう。
ここまでは反応できる距離から狙われていたものが、知らぬ内に致命的な距離にまで詰められてしまったら。
アヴドゥルの危惧は一行の間にじわりと浸透していく。
重い沈黙と緊張が場を支配したかに見えた時、
「いいや、それ程拙くもないさ」
その空気を払拭する声を上げたのは花京院だった。
それなりに危機的状況ではあるが、花京院の声音にはそれに対する気負いがない。
どこからその余裕が生まれるのか。
一行は怪訝に思い、そして皆ほぼ同時に、花京院の余裕の正体に気付いた。
足元から、緑色をした帯状のものが伸びている。
いつの間に行ったか、彼のスタンドが路地の端から端まで縦横無尽に張り巡らされていた。
そして、
「既に相手は捕えている!」
烈声と共に、『法皇の緑』の触脚が蠢く。
「……!!」
それまで何もなかった空間から、逆さ吊りにされた刺客の姿が現れていた。