機械仕掛けの人形を彷彿とさせる動きで、女が立ち上がる。
一度は捕えられたというのに、ただの一片も動揺は窺えず、その眼差しに宿るのはひたすらに真っ直ぐな攻撃の意志。

そうして敵意は明らかなのに、女は一行の前へ姿を現してから一言も声を発していなかった。
その様はまるで、DIOの望みを叶える為だけに行動しているようで。

まさしくDIOの傀儡だ。
女を見ていると胸が悪くなり、承太郎は苦い顔で舌打ちした。

「喧しい女はうっとおしいが、不愛想な女は気味が悪いぜ……」

吐き捨てるように呟くのと時を同じくして、女が銃を構えた。

彼我の距離は幾らもない。
さして狙いを定める必要もなく、女は無造作に引き金にかける指に力を込める。

まずは銃を奪い取る事が先決か。
反射的に判断し身構える承太郎へ向け、弾は淀みなく放たれ、

「シルバーチャリオッツ!!」

承太郎の背後から現れた銀色のものが、飛来する銃弾を刺し貫いた。

レイピアの先に縫い留めた弾を振り落とす、それは銀の甲冑に身を包んだ騎士のビジョンのスタンド『銀の戦車シルバーチャリオッツ』。

「女性に対してそういう事は言うもんじゃないぜ承太郎」

先に行かせた己のスタンドに続き、ポルナレフが進み出る。
承太郎の肩を軽く叩き、選手交代とばかりに女の前へ立ちはだかった。

「仏頂面の承太郎より、女の子相手ならおれの方がこの場合適任だろ?僭越ながらおれが出よう」

その顔には余裕の笑み

そしてその背に受けるのは、ジョースターを初めとする一行の懐疑的な眼差し。

ポルナレフを見る一行の脳裏に過るのは、香港での一件。
肉の芽に操られたポルナレフとの戦いを経て、彼が仲間に加わる事が決まった時の事だ。

たまたま居合わせた女性観光客が、承太郎目当てで声を掛けてきた。
当の承太郎はすげなく一喝して追い払おうとしたが、対してポルナレフはそれまでのシリアスな雰囲気から一転、
呆れる程の変わり身の早さで女性達に近付いた。

ジョセフ・ジョースター評して曰く、「頭と下半身がハッキリ分離している」。

今回名乗り出たのも、「相手が女の子だから」と自ら明言している。
これは命を狙って来た相手にさえ、香港でのあの調子でいこうというのではあるまいか。
一行の胸に宿るのはそういう類の不安感だ。

死角から注がれる視線に込められたものなど微塵も気にせず、ポルナレフは女と対峙する。

「そういう訳で、ここからはこのジャン=ピエール・ポルナレフがお相手しよう。
とはいえ、出来れば女の子に手を上げたくはないんでね。このまま銃を捨てて大人しく投降してくれると助かるんだが」

諭すようにに話しかける傍には、いつでも対応が取れるようチャリオッツが控えている。
友好的な雰囲気であるものの、その佇まいに隙は無かった。

ポルナレフは女性として接しつつ、敵か否かの線引きは出来ていた。
当然と言えば当然の事なのだが、それを確かめて一行には謎の安堵が芽生えている。

「……何で……?」

安堵感から一呼吸の間を置き、ふと。
密やかな声が、届いた。

一瞬、風の音か何かかと聞き流してかけた程の、微かなもの。

花京院が隣を見ると、同じようにこちらを窺うアヴドゥルと視線がかち合う。
聞き間違いではないようだ。
今、確かに声がした。

ひどくか細い、女性の。

それが誰のものであったか気付き、目を向ける。
ポルナレフの背、更にその向こうにいる、刺客の女へ。

迷いなく構えられていた銃口が、今や力なく下ろされていた。
冷酷な色を浮かべていた目は見開かれ、代わりに困惑と動揺に彩られている。

それらの変化で、一行は確信する。
今の声は、この女が発したものだと。

襲撃から初めて女が見せた、DIOの傀儡ではない、人らしい姿であった。













2014.12.11
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