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「怖い?」
「そーだよ!大男に囲まれてちゃあ安心できるもんもできねーだろうがよ」
前に立つ男達を咎める声の主は、徐に新の肩を抱き寄せた。
姿を確認するよりも先に新の視界が傾ぎ、引かれるままにバランスを崩した体が何かにぶつかって止まる。
男達の丸くなった目が向くのに釣られるように、新は自分が身を預けているものを振り仰ぐ。
「悪かったなマドモアゼル、気が利かなくってよ。俺はジャンってんだが」
少し大げさなくらいの声と表情で新に笑いかけるのは、銀の髪を器用に立てた男。
抱いていた不安を見抜き指摘した上で、自らが手本となるように目線の高さを合わせた上でこちらを覗き込む青い目。
「君は新って言ったか?この俺に免じて、この場は許しちゃあくれないか」
親しげな話し方、慣れた笑顔。
ジャンと名乗ったその男を見ていて、何故か脳裏に火花が散るような衝撃があった。
「っ……!!」
「おっと」
気付いた時には、新はジャンの肩口を掴み、食って掛かる勢いで口を開いた。
が、その後に続く筈の言葉が、喉から先へ出て来ない。
何かを言いたかったのに、何を言いたかったのか分からない。
もどかしい思いとしばらく格闘した後、結局口を閉じるだけで終わってしまった。
後に残ったのは、ジャンを至近距離で凝視する眼差し一つだけ。
ジャンは少し驚いていたが、すぐに新を落ち着かせるように笑いかけ、
「どうした?俺の顔に何かついてたか?」
「……いえ」
首を傾げるのへ、何だか少し気まずい思いがして、新はそっと目を伏せた。
「それよりポルナレフ、表の様子はどうだった?」
新が目を逸らした後も訝しげにしている気配があったが、ローブの男が声を掛けてきたことでひとまず注意は逸れたようだ。
「ああ、さっきの銃声聞きつけて人が集まり始めてる。早いトコここを離れた方が良さそうだぜ」
「……どうする、ジジイ?」
「ふむ……ちと早いが、ホテルに向かうとするか。新くんにも一緒に来てもらおう。
このまま放っておく訳にもいかんし、もう少し話も訊いておきたいしのう」
それで構わないか、と尋ねる老人に向かい、こくりと頷く。
連れて行きたいというのならついていくまでだ。
今の自分には帰る場所も行く所も分からないのだから。
一時的にでも不安から解放された安堵感と、なるようにしかならないという諦めと割り切りの心で、
新は段々肝が据わってきていた。
話がまとまってからの彼らの行動は早かった。
老人がビルの壁に張り付き、表の通りの様子を窺って、機を見て何食わぬ顔で人通りに紛れていく。
続いて、少し間を空けてローブの男、学生二人と次々に出て行くのを見送ってから、
「さ、行こう。俺から離れるなよ」
「は、はい……」
ジャンが促すのに応じて立ち上がる。
その間も支えるように肩を抱かれていたが、立ち上がると同時に手が離れ、ごく自然に新の手を握った。
そしてごく自然な動作で腕を組ませると、新が口を差し挟む隙もなく路地を出た。
「こりゃ役得だな」
「え?」
「いや何でも」
エスコートされて出た表通りの進行方向、やや前方に先に発った四人の背が見える。
「あんなデカい面子の中に一人女の子がいたんじゃ目立って仕方ねーからな。しばらく離れて歩こうぜ」
囁くように言うジャンをそっと見上げる。
視線が向いたことに気付いたジャンは、気安げにウインクを一つ寄越した。
その表情にまた一つ、脳の奥を何かが掠める。
これは失くした記憶の一片なのだろうか。
正体の分からない感覚を掴みあぐねたまま、新はジャンに従い歩を進めた。
ジャン呼び違和感甚だしい。
Ouvertureこれにて仕舞です。長くなる予感しかしませんが最後まで書き上げたい。
戯
2015.2.11
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