自分とアンとに割り当てられたのと、ほぼ同じ間取りの部屋。
そこに大の男が4人と女1人が集まれば、流石に手狭の感が否めないな、とは思う。

12階、1212号室。
ポルナレフが刺客に襲われたとの報せを受け、集合場所とされたジョースターらの部屋だ。

は備え付けのソファに座らされ、傍らに膝をついたアヴドゥルに手の怪我を診てもらっていた。

「右手はこれで良いだろう。さあ、そっちの手も貸してくれ」

片手を解放され、もう片方も求めのままに差し出す。
路地裏で巻いてもらった包帯にはうっすらと血が滲んでいた。

「上手く止血出来ていなかったようだな……すまなかった、もう一度巻き直そう」

真新しく血が滲む包帯を見て申し訳なさそうに言うアヴドゥルに、は目を泳がす事しか出来ない。
傷が開いてしまったのは、アンとのちょっとした押し相撲の結果なんです、などと。
アヴドゥルの言葉を訂正するには、真相があまりに間抜けだった。

いえ、と短く返し、は誤魔化すように、手当の終わった右手を翳し眺める。

薬を塗り、ガーゼを当て、適度な締め付けで巻かれた包帯。
よりも大きく武骨な手により為されたとは思えない程に、その処置は丁寧で適切だ。

その右手越しに、ジョースターと空条、それに花京院が集まる姿が見えた。
何事か話し合っているようだが、声を抑えているのか同じ部屋にいても彼らの話は聞き取れない。
想像するに、今この場にいない、集合を掛けられる理由となった『彼』について、話しているのだとは思うが。

「……ポルナレフさん」
「うん?」

口を突いた呟きに、手当に集中していたアヴドゥルが顔を上げる。

「いくらなんでも遅くありませんか?5分で来るって言ったんでしょう?」

DIOの刺客から襲撃を受けたとポルナレフから連絡があった。
彼は5分でこの部屋にに来ると言ったらしいが、達が集まった時点で5分はとうに過ぎていた。

それから更に何分経っているだろうか。

足を負傷したと言っていた彼が、自室のある9階から仮に階段で向かっていたとしても、既に到着していておかしくない時間だ。

「様子を見に行った方がいいんじゃ……」

もしや、という思いが生じる。
連絡を入れた後に、動けないような事態に追い込まれたのではないか。
或いは、既に。

刺客という言葉の持つ不穏な響きは、思考を悪い方へ悪い方へと持っていく。

「……いや、それは止めた方がいい」

静かで冷静な声が返ってきて、はアブドゥルへ視線を戻す。

不安に揺れる心を見透かすような、真っ直ぐと射抜いてくる目が、を捉えていた。

「敵がどんな罠を仕掛けているか分からん。ここで全員で待っていた方が、幾らかは安全だろう」
「……そうかも知れませんけど……心配じゃあないんですか?」

アヴドゥルの論は合理的ではあったが、感情を納得させるものではない。
理論に対し感情論で答えを求めるの切り返しは、半ば反則のようなものだ。

しかしアヴドゥルは、互いの言い分が平行線を辿りかねないものにも特に困った素振りも見せず、

「心配する程、ポルナレフは弱くないぞ。一戦交えた事のある私が言うんだから間違いない」

自信たっぷりに、笑いかけてくる。
一戦交えた?と驚くに、それから少し表情を和らげて、

「大丈夫、彼はよく訓練された優秀なスタンド使いだ」
「スタンド?」
「ああ、それも覚えていないんだな。まあ一種の超能力のようなものなのだが……ともかく。
あれはそう簡単にやられるような男じゃあない。確かに少し時間はかかっているが、来ると言ったなら必ず来るさ。
……私を信じて、今は大人しく待っていてくれないか?」

穏やかな声音で諭す、アヴドゥルの目を見返す。
静かで深みのある声と、握られたままの左手から伝わる温かさ。
それらには、不安にざわつくの心を宥め、納得させられるだけの力があった。

ふ、と肩の力が抜けるのを感じた時。
は自然と、首を縦に振っていた。












2015.4.11
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