「さて……本題に入ろうか」
話の切れ目を見計らって、ジョースターが僅かに声のトーンを変えた。
「ポルナレフを待つ間、君の今後について話しておきたいのだが」
いいかな?と問われ、は居住まいを正す。
自身、最も気にしていたこと。
何処から来たか分からない自分が、これから何処へ行くべきか。
それを判断する為に、頼れるのは世話を焼いてくれたジョースター達だけなのだ。
自然と肩に力の入るに、ジョースターは「そんなに緊張しなくてもいい」と笑った。
「我々の意見としては、スピードワゴン財団に君の保護を頼むのが最善じゃと思っておる」
「……スピードワゴン財団……」
「わしらの事情によく通じている組織でな。医療の分野に力を入れておるし、
彼らならきっと、くんをDIOの目から上手く隠してくれるだろう。
わしらは付き添うことは出来んが、財団の保護の下でゆっくり養生して、記憶を取り戻していきなさい」
話している間もジョースターの視線はを見据える。
揺らぎもしないその眼差しは、その心根の真摯さを表しているように思えた。
スピードワゴン財団という団体については、是非や真偽の判断など出来ない。
けれど彼らが、行き摺りの人間に対しては過ぎる程の手を尽くしてくれようとしているのは分かる。
ジョースターの言う通り、その提案に従うのが最善の行動なのだろう。
「……身を隠さなければいけない程、DIOという人は危険なんですか?」
に肉の芽を打ち込み洗脳した男。
ジョースターの話しぶりでは、そのDIOを異常なまでに警戒している印象を受けた。
にはそこまで警戒する理由が、今一つ理解できなかった。
DIOに関する一連の記憶が抜け落ちてしまっているせいかも知れない。
の疑問を、ジョースターは腕組みした姿勢で受け止める。
「ああ、危険だ。肉の芽の支配下にありながら肉の芽に抗った君なら尚更な。
奴は自分に従わない者を野放しにしておくような男ではない。もし奴に見つかれば……」
濁された言葉の先。
殺されてしまうか、或いは死ぬよりも辛いことが待っているか。
不穏なイメージばかりが脳裏を去来する。
それでもどうにも真に迫ってこないのは、未だにどこか他人事のような心地でいるからなのだろうか。
「君の身の為でもある。従ってくれるね?」
姿勢を低くして目の高さを合わせ、ジョースターが諭すように念を押す。
対するの答えは一つしかない。
意思決定の指針となるものがない現状、これに従うより他に方策はないのだ。
はい。
そのたった二文字を声に出すより先に、別の物音が生じた。
ノックもなく開かれるドアの音だ。
全員の目が一斉にドアを向く。
もそちらを見たが、ソファに座った位置からでは空条らの体躯が視野を遮ってドアまでは見えない。
「お、ポルナレフが来た」
ジョースターの一言で、視認できなかった来訪者が明らかとなる。
遅れていた最後の1人が、今ようやく到着したようだ。
「遅いぞポルナレフ」
咎めるような花京院の声を聞きながら、はポルナレフを出迎えようと立ち上がる。
刺客に襲われ足を怪我したという話だった。
きっと手当が必要だ。
自分にも何か手伝えないかと考えつつ、訪問者が見える位置まで移動し。
凝立した。
「……つ、つかれた……」
力なくつぶやき、壁にもたれかかったままずり落ちる、血だらけの姿。
足の怪我どころの話ではない。
彼の部屋のある9階からよくこの有様でここまで来れたものだと驚いてしまう程の出血量に、の思考が止まる。
そして、
「……っ
考えるよりも早く、体が動いていた。
ジョースター達の驚きに見開かれた目が追いかけてくるのも構わず、胸の内に湧いた衝動に突き動かされるままに。
は、へたり込むポルナレフのもとへと駆け寄っていた。