何っ、と視界から外れた所で驚きの声が上がる。
ジョースターだろうかと予測を立てるが、確かめる余裕は今のにはない。
空条の目が、の眼差しを絡め取っていた。
先に逸らした方が負けだと思った。
空条のこの目に負けてしまうようでは、仮に旅の同行を許されたとて今後意志を貫き通すことなど出来はしまい。
気を抜けば顔を伏せてしまいたくなる自分を叱咤して、緑の眼差しをひたすらに見返す。
恐らく、時間にすればほんの数秒、それを何分何十分に感じる程の緊張の中。
不思議な程あっさりと、先に視線を逸らしたのは空条だった。
「……やれやれだぜ」
低く呟き、に構わずジョースターに向き直るや、
「ジジイ、どうやらこいつは本気だぜ。やるといったら本当にやる目をしている。
無理に説得しても、きっと財団の保護なんか受けやしない。隙見て抜け出してエジプトへ向かいかねん」
「ム、ムムウ……」
「連れて行くか、1人で行かせるか。この場で選べるのはこの2つだ」
「ムムムウ……!」
思いがけず、の有利に働くようなことを言うではないか。
は目を瞬いて空条を凝視した。
これは彼に認められた、認めさせたと受け取っていいのだろうか。
「……よし、分かった」
真意を確かめる前に、唸っていたジョースターが顔を上げた。
空条に比べ、こちらは非常に分かりやすい。
根負けしたような、観念したような目をに向け、
「知らぬ所で危険な目に遭われるよりは、わしらの目の届くところにいてもらった方が幾らかマシじゃ」
「!じゃあ、」
「ただし、君が旅を続けるのは難しいとわしが判断した場合、問答無用で財団のヘリに乗ってもらうからな」
顔を輝かしかけたを押し止め、「いいな?」と念を押す。
これは最終確認だ。
こちらを窺う眼差しの真剣さに、は唇を引き結ぶ。
「……分かりました」
深く、しっかりと頷いて返した。
の返事を聞いてから、ジョースターは他の皆にも同じことを問う。
アヴドゥルや花京院はやや物言いたげだったが、これを了承した。
とりあえずは従う、ということだろうか。
旅の決定権がジョースターにあることを、はこのやり取りで知った。
空条は先にの同行を認めている。
自分は、彼らの旅の同行者として受け入れられたのだ。
それは、が「生きる」道が開かれたということ。
「皆さんの足手まといにならないよう善処します。よろしくお願いします」
安堵した心のままに頭を下げ、今後行動を共にする彼らへ挨拶を述べる。
「そんなに気負わなくても、危なくなったらおれが守るさ。これからよろしくな、」
「守るも何も、ポルナレフが一番危なっかしい気がするんだがなあ」
「にゃにを!?」
姿勢を戻して見渡した先で、軽い調子で明るく笑うポルナレフへ、ジョースターが茶々を入れる。
アヴドゥルが無言で頷き賛同の意を示すのへ、ポルナレフは心外そうに顔を顰めた。
の発言に一度は緊張に張り詰めた場の空気が、徐々に緩んでいくのが分かる。
命の危険さえ伴う旅路にある気負いを感じさせず、軽口を叩きあう彼らを興味深く眺めていると、
不意にドアをノックする音が響いた。
やり取りを止めた皆の目が一斉にドアへと向かう。
誰が訪ねて来たというのか。
この部屋には既に、呼び集められた者は全員揃っている。
「アンちゃんかな……?」
割り当てられた部屋に置いてきた少女の姿を思い浮かべる。
花京院に言い含められていたとはいえ、はいそうですかと大人しくしているばかりとは思えない。
待つのに飽いて出てきてしまったかと思い、ドアに一番近かったが応対に向かう。
「アンちゃん?……あ」
ドアを開け、そこにいるだろう姿を予想して下げた目に映ったのは、成人の腹部。
おや、と思い、そこから上へ辿ると、可愛らしい少女とは違う、厳めしい顔の男がを見下ろしていた。
「912号室に止まっているお客さんの、お連れの方ですね?」
質問の形を取りながらその口調は断定的で、不意を突かれて棒立ちするを威圧してくる。
正面に陣取る男の背後には、同じ服で揃えた男が数人。
それと、ホテルマンらしき姿。
「我々は警察の者ですが、912号室のお客さんに少々伺いたいことがありましてね。……こちらに来てませんか」
重ねられる問いに返事を忘れるを通り過ぎ、警官だと名乗った男の目は部屋の中へ。
そこに集まるジョースター達5人の姿を見つけ、その目がすっと細められるのを、は呆然として見ていた。
Recitatif終了。
1話が短めとはいえ20話の大台を前にしてようやく旅の同行が決まりました超スローペース。
この亀速度は治りませんすいません。
戯
2015.6.11
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