幾つかの通りと信号を過ぎると、人の往来が目に見えて増えた。
前を走る車の列も段々と長くなり、必然的に走行スピードも落ちてくる。
歩道をゆく人々の顔が個別に認識できる程度のスピードでしばらく流した後、
を乗せたスピードワゴン財団の車は路肩に寄り、停まった。
「着きました。ここなら必要な物は一通り揃えられると思います」
出発前に、既にジョースターより言い含められていたらしい。
助手席に座る財団の職員が、全て心得たという顔で後部座席を振り返りながら告げる。
停車した位置、窓の外には、ひときわ人通りの多い一角があった。
幅広い年齢層が集まっているように見えるそこは、遠目から見ただけでも様々な店が軒を連ねているのが分かる。
いわゆる繁華街と呼ぶべき場所だろう。
「ほおーにぎやかだな。慣れない雰囲気だが、嫌いじゃあねーぜ、こういうの」
ポルナレフが窓の外を確認し、感想を口にするが早いか車のドアを開ける。
途端に、シンガポールの真昼の外気がよく冷やされた車内へとなだれ込んだ。
湿気を多分に含んだ空気は熱く重く、押し寄せた瞬間息が詰まるような感覚を覚え、は堪らず顔を背けた。
「ほら、。早く行こうぜ」
伏せた視界の向こうで、楽しげな響きを含んだ声がする。
熱気の衝撃をやり過ごし顔を上げると、既に車外へ出たポルナレフが、声の調子と変わらない明るい表情でこちらを振り返っていた。
少し前まで、彼は暑気の中にいた。
ずっと涼しい車内にいたと違って、この気温差への順応も早いらしい。
ポルナレフの白い肌が日差しを浴び、なお白さを際立たせている。
その視覚からの情報だけでも太陽の眩しさが想像出来て、は僅かに怯む。
だが、いつまでも尻込みしている訳にもいくまい。
は覚悟を決めて、助手席の職員へ一声かけた。
「すみません、ちょっと行ってきます」
開け放たれたドアへ移動するへ、財団職員はにこりと笑う。
「行ってらっしゃい。我々はすぐそこの駐車場で待ってますから。戻られたらホテルまでお送りします」
どうぞごゆっくり。
気持ちの良い送り出しに、お願いします、と会釈で返し。
開け放たれたドアへと向け直した視界に、ふと差し伸べられた手を見つけて、はきょとりとした。
一歩踏み出せば日差しのもとにさらされる、車の影の境界線。
日差し側に立ち手を差し伸べる、ポルナレフの青の瞳がこちらを捉えている。
「お手をどうぞ、マドモアゼル」
気取った台詞、身のこなし。
青の眼差しには少しの悪戯気な色。
唐突に始まった芝居がかった仕草に躊躇った一瞬を突き、更に伸ばされたポルナレフの手が、の手を取った。
「なんだ、随分冷えてるな。いくら暑いからって体を冷やし過ぎるのはよくないんじゃあないか?」
の手を触るや、小言じみたことを言う。
対する彼自身の手は、冷えた指先には心地良い程に温かい。
取られた手を引かれる。
誘われるままに、は車外へと足を踏み出した。