図書室










 何の用があったのか、ふらりと図書室にやって来た
黙々と、委員会としての仕事をこなす中在家長次を見つけた。


「……?」


視線を感じた長次が、手元から顔を上げる。

きょとんとした顔で、長次をじっと見つめるの目。

視線がかち合うと、不躾に注視していたのを恥じるように、気の抜けた笑みを見せて。
本棚の向こうに、姿を消した。




「……?」


しばらくして、また長次が顔を上げる。

そこに再びがいた。

長次の目に気付いても、今度はその場から立ち去るような事もない。

片手には本。
貸し出しかと思って、長次が無言で手を差し出す。

促されるようにが近付く。

差し出したのは、本を持っているのとは別の手。


長次の手を素通りして。
の手が伸びたのは、長次の頭。


ぽんぽん、乾いた音を立てて。
頭巾をかぶった頭を、撫でる。


「?」
「ん、何だかやりたくなった。中在家くん体格いいから、あんまこーゆーことされないでしょ」
「……」
「嫌だったら言ってね。やめるから」


言わないと満足するまでやめないよ!

気の抜けた笑顔で、楽しそうに。
本腰を入れて撫でる為か、その場にしゃがみ込んだ。

撫でられている長次の、表情変化の乏しい顔からは、心の内は読み取れない。
嬉しがっている感じはないが、嫌がっている風でもない。

拒まれないのを良い事に、は延々、にこにこ楽しそうに長次の頭を撫で続ける。


そんな折り。
おもむろに、長次の腕が伸びる。

手はそのままに向けられて。


ぽん、とその頭を撫で始めた。


撫で返されるとは思ってもいなかったようで。
軽く下を向く形になったは、何度も目を瞬いている。


「……嫌か?」


短い一言に込められた意味。

『撫でられたから、やり返してみたのだけれど。』

読み取るのに、時間がかかったようで。
はちょっとの間、撫でられるがままに固まっていたが。

読み取った後。

いつもの気の抜けたものとは違う。
照れたような、はにかんだ笑いを経て、満面の笑顔へ。


「えへへ、ちょっと嬉しい。」


ぽんぽん。
ぽんぽん。

長次と
二人の奇妙な撫で合いは、無言のまましばらく続いた。




……というのが、立花仙蔵がたまたま見かけた一部始終。
現在はと言えば。

仙蔵は、呆れ混じりの溜息を吐いた。


「…何でそんな事になってるんだ?」
「やあそれが私にもさっぱり」
「……」


二人の距離感。

たとえるなら、子供が初めて見る物に興味を持ち、おっかなびっくり近付いて慣れていくような。
最初はそんなものだったのに。

今見てみると、胡座をかいた長次の膝の中に、がすっぽりと収まっていた。

たとえるなら、休日に勤め人の父親が家にいるのが嬉しくて、一日中べったりしている子供のような。

そんな、まさかの急接近。
まさかのくつろぎっぷり。

何が凄いかって。
そんな障害物があるにも関わらず、何事もないように長次が委員会の仕事を進めている事だ。
勿論動けないので、手の届く範囲で出来る事のみだが。


「そうしてると、どっちが年上なのか分からないな」
「ねー」
「『ねー』じゃない」
「……」




















長次は動じない(真顔)
長次しゃべってくれない(真顔)



2010.1.13
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