保護者
「なかなか良い動きをするじゃないか」
用具倉庫の壁に寄りかかり、食満留三郎が言う。
視線の先には、少し離れた所でボール遊びに興じる用具っ子達。
遊びの輪の中に、およそ用具委員会とは無縁な、カスミが加わっていた。
同学年とは言えど、二つ以上歳の離れた用具っ子達に世話を焼かれながらの、ボール遊び。
そのカスミの動きを見ての、率直な感想だった。
「あの子、身が軽いからね。才能じゃあないかしら?才能」
応じるのは、留三郎と同じように、壁に背を預けて隣に並ぶ。
委員会活動の終わり。
カスミを連れたと出くわしたのが、今この状況に至るきっかけだった。
冗談とも本気ともつかない口調で、妹を褒める。
その際の、妹を見るの幸せそうな表情といったらない。
骨抜きにされきった、溶けて崩れてしまいそうな笑顔だ。
妹の事しか頭にない。
そんな状態の奴をまともに相手をしたとして、後々ろくな事にはならないだろう、と。
留三郎の第六感が告げる。
君子危うきに近寄らずという格言は、今のような状況の時に使うべきものだとよく分かった。
「は苦手そうだな」
「ん?」
「身のこなしとか」
「あーダメダメ、そういうセンスまるでないの、私」
骨抜きの笑顔から、幸せの余韻を残しつつの、いつもの笑顔に変わった事で。
話題転換の成功を確信する。
顔の前でぱたぱたと手を振り、否定の意を示す。
その手首。
細さに、目がとまる。
「落とし穴に引っかかって、落ちる前に「ヤバイ」とは思うんだけど、
思った所で体が動かないからどうしようもないんだよね」
困ったもんだ。
良いながら笑う。
最初に落とし穴にはまっていた所を救出し、保健室へ連れて行った以降も。
その口ぶりから察するに、頻繁に落下式罠にかかっているらしい。
罠の存在を知らせるサインがある事を教えてあるというのに。
目に留まらないのだろうか。
少しばかり、呆れてしまう。
「じゃあ、すぐに反応できるよう、体を鍛えた方がいいな」
「うーん…こっち来てから、少しは筋肉ついてきてると思うんだけど」
「どれ」
言うの、二の腕を掴む。
力の抜けた、柔い感触の後。
留三郎の行動を見たが、力こぶを作るように、腕を曲げてみせた。
「どうよ?」
「…もっと頑張りましょう。」
「えー」
力を入れても、まだ柔い、腕の感触。
わざと神妙な面持ちをしてみせて、努力しなさいと言うと。
「そういう留三郎くんはどうなのさ」
「ん?」
お返しとばかりに、留三郎の二の腕を掴んでくる。
応じて、腕を曲げて力を入れてやる。
「…もっと頑張ります」
当然といえば当然。
日々鍛錬を行っている留三郎と、一般生活程度にしか体を使わないとでは、体格に明らかな差が出る。
それを確かめたが、神妙な面持ちで、先の留三郎の発言を受け止めるものだから。
あまりにおかしくて。
留三郎は、吹き出すように笑ってしまった。