背丈










 中在家長次は、木の下で両手を空に掲げているを見つけた。
長次に背を向けている格好で、こちらの視線にはまだ気がついていない。

何をしているのか。

の取っているポーズがちょっと面白かったので、しばらく様子を見る事にした。


両手を空へ掲げた
懸命に伸びをして、遠くの誰かに手でも振っているように見える。

が、が向いている先にあるのは、学園と外を隔てる塀と木の幹のみ。
手を振り返す相手などいない。


普通なら見えないものでも見えているのか?
ちょっとぞっとした所で、が次の行動に移った。

近くから適当な長さの棒を見つけてきて、今度はそれを頭の上で振り回している。

何の合図なのか。

首を傾げる長次の目に、ちらりと。
木の枝に引っかかる、白い何かが捉えられた。

はっとする。

白い何かと、妙な動きをする


得心がいって、長次はに近付いた。


「だめだ…届かない」


腕と棒を振り回し疲れた様子で、がっくりと落とされたの肩。
傍に寄って、ぽん、と叩くと、盛大に驚かれた。
丸く見開かれた目が、長次を映し込む。


「あ…長次くん」
「代わろう」
「え」


ぽかんとしているが持っていた棒を、一方的に譲り受ける。

同じ位置に立って、改めて上に目を向けてみると。
ここから見上げた方が、木の枝に引っかかっているものがよりよく確認できた。

木の上で頼りなげに風に吹かれる、白い物。
その正体は、手拭いだった。
誰かに手を振るような動きで、はこれを取ろうとしていたのだ。

棒を掴んだ腕を伸ばす。
何の労もなく、棒の先は手拭いへと至り。
引っかかっていた部分を外して、無事手元に回収した。

に手拭いを差し出すと、おお、と感嘆の声が漏らされた。


「ありがとー長次くん!あとちょっとが届かなくて困ってたんだ!」
「洗濯物…か?」
「そそ。風に飛ばされちゃってさ。取ろうにも木登りなんて私出来ないし」


ホント助かったよ!
満面の笑顔で礼を言われる。

長次は、それに小さく頷いて応えた。


は長次よりも年上だが、背丈は六年生の誰よりも低い。
長次がやすやすと届く高さに、どう頑張っても届かないのは、仕方のない事だ。

その「出来ない事」を、出来る自分がたまたま通りかかったから、代わりにやっただけだ。

何でもない事ではあるが。
礼を言われて、悪い気はしない。


「いいよねー長次くん背が高くて」
「……」
「長次くんぐらいとは言わないけど、この身長差が半分になるくらいは欲しかったなぁ」


長次を見上げながら、自分の頭に手を乗せるに。
チョップでも繰り出すように、水平移動させた手を当てられる。

遠慮がちに繰り出された攻撃は、長次の目の高さに届く程度。

小さいとは思っていたが。
成長の見込めない年齢になってこの背丈では、長次を羨むのも詮無い事に思えた。

のチョップをよけて、手を伸ばす。

自分よりも位置の低い頭を、ぽんぽんと撫でた。


「今のままで十分だ」
「洗濯物も一人で取れないんだよ?」
「……」
「今からでも伸びないかなー」


慰めの意味と、背が高くなったが想像できなくて、かけた言葉。

当然、素直には受け入れられないようで。

は、困ったような顔で笑っていた。




















その身長半分分けてくれ!の心境。
長次とヒロイン設定の身長差を2で割って設定に足すと、戯の理想だった身長になるというトリビア
(どうでもいい)



2010.3.15
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