油断










 今日は六年生が実習で外に出ていて、朝から晩まで学園に居ない。
そんな日に限って…というより、上級生不在などお構いなしに、四年生の綾部喜八郎が、大量の落下式罠を作成した。
そのせいでボコボコ穴だらけになった校庭を元通りに埋め戻すのは用具委員会の仕事だが、
六年生不在の今、三年生一人と残りが一年生という面子に、作業を振ってしまうのは不憫だ、という事になり。

穴埋め作業の助っ人として、も加わる事になった。


「あー肩凝ったぁ…」


大きく吸った息を吐き出すのに声を乗せて、首や腕をぐるぐると回す。

予想通りといおうか、穴埋め作業はやはり一日では終わらず。
日暮れ後は用具っ子達を先に長屋に帰らせ、残った穴は全て一人で埋めた。
これがなかなかに重労働で、その上かなり時間もかかった。


月はもう大分高く昇っているし、腕や足の筋肉はパンパンだ。
腰の負担も大きい。

後で新野先生に湿布を貰ってこよう。
そんな事を考えながら、手を掛けたのは湯殿に続く脱衣場の戸。
遅い時間であるからか、戸を開けると、脱衣場には誰もおらずしんと鎮まり返っている。

風呂に入ってよく温まって、マッサージしなくては。
明日の筋肉痛の事を思い、乾いた笑いをこぼしながら、後ろ手に戸を閉める。


「早くしないと皆帰って来ちゃうかも…」


袖から腕を抜きつつ、ちらりと、廊下に面する戸を見やる。

実習に出ている六年生。
帰ってくるのは夜だと、曖昧な情報しか知らされていない。

穴埋め作業に手間取り、こんな時間になってしまったけれど。
は何としても、彼らと風呂の時間が被るのは避けたかった。


いずれかの学年で夜までかかる実習が入っている日は、一人で風呂に入れる時間を見計らうのが難しい。
この間も、戸を開けたら先客に仙蔵がいてびっくりしたものだ。
それらしい理由をつけて慌てて出て来てしまったけれど、不審に思われなかっただろうか。


思い返し、自分の演技の下手さに身悶えしたい衝動に駆られながら、上衣を脱ぎ捨てる。


「…っはー、苦しかったー…」


上衣の下、肌に巻いていたさらしを解き、深呼吸。
こっちに来て毎日巻いているが、巻いている間の息苦しさと、解いた時の開放感は何とも言えない。

一息吐き、さらしを解かれた自分の胸元を見下ろして、ふっと笑みを零す。


このさらしの下の事は、溺愛する妹のカスミさえも知らない。
身内にさえ明かしていない事を、まして忍たま達に明かせるものか。


さらしの下には、人と風呂を共にしない理由が隠してある。




上半身裸になり、脱いだ物を適当にたたむ。
そして、袴の紐に手を掛けたその時に。




がらり、と。
脱衣場の戸が開く音がした。




















正体がバレそうな段。
主人公に人の気配を読むスキルとか勿論ありません。



2010.5.19
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