買付
委員会で使う修理道具に、ガタが目立つようになっていた。
そんな物を下級生達にいつまでも使わせておくのは危険なので、
午後の空き時間を利用して、食満留三郎は町まで買い出しに出て来ていた。
道具の他、在庫の少なくなってきていた、こまごまとした備品なども買い足し。
一通り用事も済んだ所で、さてそろそろ帰ろうかと町の外へ向かいかけた時である。
「留くん?」
不意に呼び止められて、背後を振り返った。
行き交う人の中で、立ち止まり留三郎を注視する姿。
それを認識するや、顔の筋肉が引きつるのを感じた。
「…」
「あーやっぱりそうだった。良かったー人違いじゃなくて」
何しに来たの?あ、用具の買い足し?
嬉しそうに近付いてきて、留三郎の手荷物を見ながら話しかけてくる。
いつもどおり気の抜けた笑顔の、であった。
背には大きめのかごを担いでいる。
中に入っているのは野菜を中心とした食材だ。
「も…買い出しか?」
「うん。明日の朝ご飯に使う分が足りなくなりそうだって、食堂のおばちゃんに頼まれたの」
「結構な量だな。重いだろう」
「重いさー。肩抜けそうだよ」
よいしょ、と掛け声1つ、かごを背負い直す。
そのタイミングで、重みに負けてずり下がっていた着物の衿を引き上げていた。
ちらりと垣間見えた鎖骨の辺りに、少しだけ動揺する。
先日の、脱衣場での一件のせいだ。
不自然にならないようにから視線を外しながら、その事を思う。
の正しい性別を知ったあの日。
隠すべき所は隠れていたとはいえ、裸体を目にしてしまったのだ。
敷地を隔てられているくのたまよりも、もしかすると身近な存在である。
忍者の三禁をよく理解していても、のちょっとした行動が、留三郎に要らぬ意識をさせてしまっていた。
唯一救いなのは、裸を見られた当人であるが、これまでと同じように接してきてくれる事だ。
だから自分も、何事もなかったように接していられるのだ。
その点に関しては、に感謝している。
「んでね、留くん。お願いがあるんだけど」
ぱん、と手を顔の前で拝むように合わせる。
その行動に、留三郎はちょっとだけ眉を寄せた。
「何だ、荷物なら持たないぞ」
「そんな事じゃなくて。留くん、もう帰りでしょ?一緒に帰ろうよ」
「ん…ああ、別に構わないが。……ひょっとして一人で帰れないのか?」
「いやぁ、道順は教えて貰ったんだけど、行きと帰りじゃ景色の見え方が全然違ってさ」
「危うく帰れない所だったんだな?」
「えへへー。留くんが町に来てて良かったよ!」
もし留くんに会えなかったら、晩ご飯か明日の朝ご飯のおかずが漬物だけだったかも!
それはちょっとひもじい。
顔にがっかり具合が出てしまっていたようで、こちらを見ていたがおかしそうに笑った。
2人並んで歩き出す。
おつかいを頼まれた品から、明日の朝ご飯のメニューを予想しながら、学園までの道を辿った。